本研究の2年目(平成29年度)では、異なる置換基で非対称に置換されたジシレン(RA2Si=SiRB2)におけるイオンラジカル種の合成、構造、電荷とスピンの分布について検討すべく、前駆体ジシレンとしてトリアルキルシリル基(RA = SiMetBu2)とアルキル基(RB = iPr)で置換されたジシレンを合成し、それを金属カリウムで一電子還元して生じたアニオンラジカルの発生、観測を行った。しかし、(tBu2MeSi)2Si=Si iPr2から生じるアニオンラジカルは熱的にやや不安定であり、室温では数分で分解した。理論計算から予測されるスピン密度がより大きいiPr基が置換した3配位ケイ素側の立体保護が不十分であるためと推測されたため、本年度の研究では2級アルキル基であるiPr基をより嵩高い1-エチルプロピル基に変更した非対称置換ジシレンを新規に合成し、そのアニオンラジカルの発生と解析を行った。新規に合成したジシレン(tBu2MeSi)2Si=Si(CHEt2)2の中性状態での分子構造は、(tBu2MeSi)2Si=Si iPr2と非常に類似した構造パラメーターを示す平面性の良いジシレンであった。 予め理論計算で予測した(tBu2MeSi)2Si=Si(CHEt2)2のアニオンラジカルの構造は、(tBu2MeSi)2Si=Si iPr2から生じるアニオンラジカルとよく類似しており、tBu2MeSi基が結合した3配位ケイ素側に負電荷が、iPr基が置換した3配位ケイ素側にスピンが偏在したトランス折れ曲がり構造であった。(tBu2MeSi)2Si=Si(CHEt2)2を金属カリウムで一電子還元して生じたアニオンラジカルの熱的安定性は大きく向上し、室温での分解速度を抑制することは出来たが、結晶化による単離、構造解析には成功しなかった。
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