昨年度に引き続き、カテナンの窒素原子にフルオラスタグを導入するための条件検討を行った。クラウンエーテルにより動的保護されていて、非常に反応性に乏しい窒素原子ではあるが、スルホニル基を良好な収率で導入できることが明らかとなったことから、フッ素原子を有するスルホニル基の導入を試みた。その結果、トリフルオロメタンスルホニル基、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基が良好な収率でカテナンの窒素原子上に導入できることが明らかとなった。フルオロ置換スルホニル基が導入された[3]カテナンでも、対称性の高いD2h対称をもつ異性体と、対称性の低いC2v対称性を持つ異性体が存在することがNMR測定により明らかになり、この結果はフルオロ置換されていないスルホニル基と同様の結果であった。導入したスルホニル基が大きさの小さいメタンスルホニル基の場合、D2h対称をもつ異性体とC2v対称性を持つ異性体の間に平衡が存在し、対称性の高いD2h対称をもつ異性体のほうが安定であった。一方、ペンタフルオロベンゼンスルホニル基が導入された[3]カテナンは、嵩高いペンタフルオロベンゼンスルホニル基が立体障害となるため、両異性体間に平衡はなかった。 次に、クラウンエーテルにフルオラスタグを導入するため、クラウンエーテル用のエステル基を加水分解し、カルボン酸へと変換した。トリフルオロメタンスルホニル基が導入されたカテナンは、対応するカルボン酸体を得ることに成功した。しかしペンタフルオロベンゼンスルホニル基が導入されたカテナンでは、加水分解とともに、ペンタフルオロベンゼン環上で求核置換反応が容易に進行し、加水分解の補助溶媒として用いていたアルコールでフッ素が置換された誘導体が得られた。D2h対称をもつ異性体は良好な単結晶が得られ、X線結晶構造解析により、分子内で環状分子同士が水素結合していることが判明した。
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