研究課題/領域番号 |
16K05692
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
川崎 常臣 東京理科大学, 理学部応用化学科, 准教授 (40385513)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ホモキラリティーの起源 / アミノ酸 / アミノニトリル / ストレッカー合成 / 不斉増幅 / 不斉発生 |
研究実績の概要 |
α-アミノ酸がキラリティーの不均衡を獲得した起源や、その不均衡が増大してホモキラリティーに至った化学進化過程を解明する研究は、学術的に極めて興味深い。キラルなα-アミノ酸の前生物的合成反応と考えられている「ストレッカーアミノ酸合成」に着目して研究を実施し、アミノ酸がエナンチオ選択的に自己複製する化学反応を明らかにした。すなわち、L型アミノ酸が、ストレッカー合成におけるキラル前駆体L型アミノニトリルを、D型アミノ酸はD型アミノニトリルを不斉誘導する現象を、すでに報告した基質に加え今回の研究で新たに見出した。また、本基質においてもアミノニトリルの顕著な不斉増幅を明らかにし、鏡像体過剰率が最初に約5%であっても、溶解と析出を繰り返す加熱/冷却プロセスさらにはVIedma熟成により、最終的にほぼ光学的に純粋な状態にまで増幅可能である。本結果は、アミノ酸の不斉増幅・増殖を伴う自己複製であり、提唱される不斉の起源によって誘起されたわずかなキラリティーの偏りが、前生物的生成機構(ストレッカー合成)を経てホモキラリティーに至る化学反応の存在を初めて明らかにしたものであり、極めて興味深い。また、三成分ストレッカー反応の基質であるアキラルなアミンを僅かに修飾してキラルとした2-メチルベンズヒドリルアミンが高立体選択的なストレッカー合成の基質として有効に作用し、最高で>99:<1の比率でキラル中間体アミノニトリルを与えることを見出した。コングロメレート形成を必要条件とする先行手法に対して、基質適用範囲の拡張に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、α-アミノ酸がキラリティーの起源とアミノ酸ホモキラリティーとを関連づける化学反応、すなわち化学進化過程を検証・探索するものである。L型とD型に不均衡を持ったアミノ酸(パラトリルグリシン)が、ストレッカー合成における自身のキラル前駆体を不斉誘導し、不斉増幅・不斉増殖しつつ自己複製する化学プロセスの構築は、本研究目的を達成する上で重要な鍵となる。また、オルトトルアルデヒドを用いるストレッカー反応において自発的不斉発生・顕著な不斉増幅を見出し報告した。水晶がイミンへのシアン化水素付加反応、すなわちアミノニトリルの生成を促進することを見出し、アキラルイミンの二次元分子不斉がキラリティーの起源として作用する不斉ストレッカー反応を明らかにした。また、ストレッカー反応の基質であるアキラルなアミンを僅かに修飾してキラルとした2-メチルベンズヒドリルアミンが高立体選択的なストレッカー合成の基質として有効に作用することを見出した。従って、当初の計画通り順調に研究が進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
シアン化水素、パラトルアルデヒド、ベンズヒドリルアミンの三成分ストレッカー反応を、左右の水晶存在下で行い、析出するアミノニトリルの不斉増幅・増殖を実施する。不斉源として投入した水晶と生成するアミノニトリルの立体相関性を検証し、水晶のアミノ酸生成反応における不斉源としての作用可能性を立証する。これまでの研究で水晶がイミンへのシアン化水素付加反応(ストレッカー反応)に際して、不均一系促進剤として作用することを見出しており、この知見に基づいて水晶とアミノニトリルとの絶対配置を関連づける。必要に応じて水晶の粉砕方法を検討し、ストレッカー反応が進行するキラル表面の面積を増加させてストレッカー反応をおこなう。 さらに、アキラルな三成分ストレッカー反応および、生成するアミノニトリル結晶の不斉増幅を円偏光照射下に実施し、円偏光のらせん向きと生成するアミノニトリルとの絶対立体相関を明らかにする。すなわち、アミノニトリルのエナンチオマー間で左右円偏光の吸光度に差が生じることを利用して、不斉光反応による不斉誘導と不斉増幅によって高鏡像体過剰率のアミノニトリルを誘導し、円偏光が不斉源として有効に作用する不斉発生・増幅機構を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年4月に現所属(現研究場所)へと異動になり、一部の物品の金額や入手方法に当初計画からの軽微な変更が生じた。そのため次年度使用額が発生したが、研究遂行に必要な物品の調達に充てることとしたい。
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