L型アミノ酸やD型糖類に見られるホモキラリティーが前生物的環境下においてどのように形成されたかその起源や進化過程を検証する研究は、学術的に極めて興味深い。キラルなα-アミノ酸の前生物的合成反応と考えられているストレッカー型アミノ酸合成に着目して研究を実施し、アミノ酸合成前駆体アミノニトリルのキラル結晶化に基づいてアミノ酸がエナンチオ選択的に自己複製・自己増殖する化学反応を明らかにした。すなわち、L型アミノ酸が、ストレッカー合成におけるキラル前駆体L型アミノニトリルを、D型アミノ酸はD型アミノニトリルを不斉誘導する現象を、種々の基質において新たに見出した。また、固体アミノニトリルの顕著な不斉増幅およびエナンチオ選択的反応晶析を明らかにした。鏡像体過剰率が最初に約0.05% eeであっても、部分的な溶解と析出を繰り返す加熱-冷却プロセスさらにはViedma熟成によって、最終的にほぼ光学的に純粋なアミノニトリルを合成することが可能である。本結果は、キラルアミノ酸が自身の合成中間体の不斉増幅・不斉増殖を伴って自己複製するものであり、キラリティーの統計的な偏りが、前生物的生成機構を経てホモキラリティーに至る化学反応の存在を初めて明らかにしたものである。さらに、ストレッカー反応と連動するアミノニトリルの自発的優先晶出に水を溶媒として使用可能であることを明らかにした。すなわち、水中での自発的絶対不斉ストレッカーアミノ酸合成を実現した。
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