研究課題/領域番号 |
16K05693
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
迫 克也 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90235234)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 電位勾配 / ドナー / シクロファン / 分子ダイオード / TTF / ドナー・アクセプター / 三元系 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は、ドナー(D)、アクセプター(A)、電位勾配制御部(G) を三次元的に配置した電位勾配制御機能を有するD-B(G1,G2)-A三元系シクロファンを創製することである。 平成28年度は、電位勾配制御部(G)としてG1、G2に同じ電子供与性基あるいは電子求引性基をシクロファンベンゼンに組み込んだD-B(G,G)-D三元系シクロファン及びD-B(G,G)-A三元系シクロファンを合成し、電子供与性基あるいは電子求引性基がドナーに対して電位勾配制御部として機能するか、また導入する置換基による制御能の違いがあるかを明らかにする。 今回、電子供与性基としてメトキシ基、電子求引性基として臭素及び塩素基、ドナーとしてTTF類縁体の1,3-ジチオール環(DT)を導入したD-B(G,G)-D三元系シクロファン(1-6)の合成に成功した。 電子供与性基のメトキシ基及び電子求引性基の臭素と塩素基が電位勾配制御部として機能するかをDTドナーの酸化電位測定によって検討したところ、電子供与性基であるメトキシ基を導入したD-B(G,G)-D三元系シクロファン(1,2)では、導入した電子供与性基の増大に伴い、母体である無置換D-B-D三元系シクロファンに比べて、DTドナーの第一酸化電位が負電位側へシフトした。一方、電子求引性基である臭素及び塩素基を導入したD-B(G,G)-D三元系シクロファン(3-6)では、電子求引性及び導入した電子求引性基の増大に伴い、DTドナーの第一酸化電位が正電位側へシフトした。 この結果から、導入する電位勾配制御部の電子供与性基あるいは電子求引性基の種類・導入数によって、シクロファンに組み込まれたDTドナーの第一酸化電位が制御可能であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計画していた電位勾配制御部(G)としてG1、G2に同じ電子供与性基あるいは電子求引性基を1つあるいは2つシクロファンベンゼンに組み込んだD-B(G,G)-D三元系シクロファンを合成することができた。合成したD-B(G,G)-D三元系シクロファンにおいて、電子供与性基あるいは電子求引性基がドナー(D)に対して電位勾配制御部として機能すること及び導入する置換基によって制御能の違いを明らかにすることができた。一部の成果については平成28年度の学会発表において既に報告している。 しかし一方、1つのドナーを導入したD-B(G,G)-oneシクロファンの選択的合成の収率が低かったために、当初予定していたドナー(D)、アクセプター(A)、電位勾配制御部(G) を三次元的に配置した電位勾配制御機能を有するD-B(G,G)-A三元系シクロファンの合成にまで至らなかったため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画よりも初年度の研究が若干遅れたので、1つのドナーを導入したD-B(G,G)-oneシクロファンの選択的な合成法を反応条件の再検討及びマイクロフロー合成等によって確立する。合成法の確立後、ドナー(D)、アクセプター(A)、電位勾配制御部(G)を三次元的に配置した電位勾配制御機能を有するD-B(G,G)-A三元系シクロファンを合成する。この研究計画と並行して、シクロファンベンゼンに電位勾配制御部としてG1、G2に異なる電子供与性基あるいは電子求引性基を導入したD-B(G1,G2)-D三元系シクロファンを合成する。合成したD-B(G,G)-A及びD-B(G1,G2)-D三元系シクロファンの電解吸収スペクトル測定によって、電子移動に伴って発生する化学種、分子内電荷分離状態の安定性を調べ、また酸化還元電位測定により、G1、G2 部の電子供与基・電子求引基の種類と組み合わせが、どのように HOMO、LUMO のエネルギー準位を上昇・下降させ、分子系全体の電位勾配と各ユニット間の電子移動が制御されるかを明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初購入予定であった試薬類の一部が製造中止等により購入することが不可能になったこと、必要な高価な薬品を購入せず安価な原料から合成により供給し節約できたこと、また試薬や溶媒の使用をかなり節約した結果、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
本研究内容の性質上、合成実験に必要な合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)が、消耗品中の薬品・ガラス器具の経費が占める割合も比較的大きいので、平成29年度の研究計画を大きく変更せずに、平成29年度の使用計画は、平成28年度の繰り越し分を主に購入する合成・測定試薬及びガラス器具(合成・測定)に合算して使用することを計画している。 研究の進捗状況によって多少の変更はあるが、研究成果の学会発表を年に1回から2回程度を、研究打合せ等についても年に1回程度を予定している旅費、研究成果発表のための学術雑誌への投稿料及び校閲料、合成した試料の低温での単結晶X線解析や表面分析のための基盤制作費等に使用する予定である。
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