研究課題/領域番号 |
16K05694
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
三浦 智也 京都大学, 工学研究科, 准教授 (10378804)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 有機合成化学 / 有機金属化学 |
研究実績の概要 |
昨年度、我々はベンゼン環のパラ位にビニル基を有するトリアゾールに、光学活性なロジウム触媒を作用させると、環化3量化反応が進行して光学的に純粋な環状[3]パラフェニレンシクロプロパンが得られることを見出し、報告した(Angew. Chem. Int. Ed. 2017, 56, 3334-3338)。今年度は、まずベンゼン環をチオフェン環にかえ、様々な構造を持つ環状[3]チエニレンシクロプロパンの合成と物性評価を試みた。初めに、チオフェン環の3位にトリアゾール基、5位にビニル基を有する基質に、Rh2(S-NTTL)4触媒を作用させ、クロロホルム溶媒中、室温で12時間攪拌すると、側鎖にイミノ基が置換した環状[n]チエニレンシクロプロパンが生成することを見出した。生成物は不安定であり、そのままでは単離が難しかったため、イミンをアルデヒドへと加水分解した後、単離操作と質量分析を行ったところ、環化2、3、4、5、6量化反応が進行していることがわかった。この中で、環化3量化反応が優先的に進行しており、3量体AとBが合計31%(82 : 18)の収率で得られた。Aは光学的に純粋なC3対称性を有する環状化合物であり、BはAのジアステレオマーであった。なお、Aの構造については、X線結晶構造解析によって確かめた。結晶状態では、すべてのチオフェン環の硫黄原子は同じ方向を、これに対してアルデヒドはすべて逆の方向を向いていた。 また、カルベン炭素に電子的摂動を加えることを目的に、電子求引性基(アシル基)が置換したトリアゾールを合成した。ついで、ベンゼン誘導体との反応を試みたところ、これまでのトリアゾールとは反応性が大きく異なることを見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
昨年度に報告した、光学的に純粋な環状[3]パラフェニレンシクロプロパンの合成手法が、ベンゼン環だけではなくチオフェン環にも適用できることを見出し、合成の幅が大きく広がったため。 また、電子求引性基(アシル基)が置換したトリアゾールを合成し、ベンゼン誘導体との反応を試みたところ、当初予想していたよりも反応活性が高く、今度の展開が期待できるため。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 既に我々は、環状[3]パラフェニレンシクロプロパンのユニークな構造上の特徴を活かし、芳香環上に規則的に配列された重水素により不斉誘起された重水素化炭化水素の合成に成功している。さらに、この分子が電子的な状態はアキラルにもかかわらず中性子の数によってキラル(光学活性)な性質をもつことを振動円二色性(VCD)スペクトルによって明らかにした。そこで本年度では、新しいキラル分子の創製を目指し、13Cを導入することで不斉誘起された炭化水素の合成を行う。この13Cでラベルされたキラルな炭化水素は、対応する13Cが12Cになったアキラルな炭化水素と比較して中性子の数が全体で3つだけ異なる。この微細な光学的特性をVCDスペクトルによって明らかにすることができるのか、分析化学の観点からも本研究は興味が持たれる。 2. 電子求引性基(アシル基)が置換したトリアゾールを用いる分子内不斉非対称化反応の開発を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)先に述べたように、今年度は、当初計画していたよりも研究が進捗した。そのため次年度は、さらなる飛躍を目指して研究する学生の人数を増やしていく計画である。そのため、次年度使用額が生じました。
(使用計画)上記に述べた研究を行うのに必要な、反応剤や試薬の購入、汎用有機溶媒、反応容器やピペット、サンプル瓶などのガラス器具といった消耗品の費用に使用する計画である。
|