本研究の目的は、研究代表者の開発した楕円鏡型蛍光検出円二色性(FDCD)測定装置を用いて、有機小分子やタンパク質の立体構造解析に適用可能な、全く新しい迅速で簡便な方法を開発することである。FDCDを構造解析に適用するにはスペクトル曲線の解釈が鍵と考え、本研究では有機小分子とタンパク質の両面からFDCDとCDの差異を精査した。有機小分子でこの差異が観測される条件を明確に定義するため、透過光CDの理論曲線と蛍光寿命の間に起こり得る励起状態の変化をFDCDと関連づけを試みた。タンパク質では、FDCDを「立体構造のピンポイント解析法」として確立することを念頭に、系統的な合成モデルペプチドの解析を行った。 有機小分子を使った実験で、励起子キラリティー系の単純な分子ですらFDCDが透過光CDと異なる曲線を与える例があった。さらに、タンパク質の部分構造でもあるトリプトファン(Trp)のFDCDスペクトルも、透過光CDとは異なる曲線を与えた。すなわち、既知のFDCD理論には修正が必要であり、この修正点を明確に定義するため、量子化学計算により関連分子の系統的な電子遷移モーメントの解析を進めた。ここまで明確な定義には至っていないが、この一環として透過光CDの理論計算により新規天然有機化合物の絶対配置をいくつかの研究グループとの共同研究として進め、報告した。 タンパク質のFDCDについては、内在性の蛍光アミノ酸残基であるトリプトファン(Trp)に着目し、Trp含有の合成モデルペプチドの解析から、TrpのC末端側のペプチド鎖伸長によりFDCDは変化するが、N末端側のペプチド鎖は影響しないことが示された。さらに、FDCDの観測機構にキラルドナーからアキラルアクセプターへの蛍光エネルギー移動(FRET)が関与すると予測し、適当なスペーサー分子にワンポット導入可能なキラルドナーを合成した。
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