研究課題/領域番号 |
16K05699
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
五島 健太 九州大学, 先導物質化学研究所, 助教 (30380538)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 光化学反応 / アクチュエータ / 芳香族化合物 / ナフタレンジイミド |
研究実績の概要 |
平成28年度は「光アクチュエータとしての長鎖アルキルアミンを側鎖に有する芳香族ジイミド類の積層型分子配列の構築と鎖長依存と分子充填が及ぼす影響」について研究を進めた. 化合物の合成は, 対応するNNジアルキルアミンとナフタレンテトラカルボン酸無水物との反応により得られた. 示差熱分析では鎖長の伸長とともに融点が降下した. 側鎖が長くなるにつれて疎なパッキングをしていると考えられる. 母体骨格1(側鎖の炭素数2個)の構造解析の結果から芳香環が位置している面の面間隔ピークd = 3.37 Aに相当するPXRDピークが側鎖の炭素数6個(2)および12個(3)の化合物で観測された. これらの化合物においても芳香環が積層した構造を保持していることが分かった. 1と3が類似のPXRDパターンを示すのに対して, 2の強度は小さく, 1, 3の結晶相と共に新しい相が混じった混相系であると推察された. これは2の融点がショルダーで現れることと対応していた. そこで側鎖の炭素数4個の化合物4についても合成し構造解析を行った. その集積構造は母体構造1とは異なっていた. 1はπ平面がスリップした平行な積層をしているのに対して, 4はπ平面が交差した積層構造であった. すなわち本系において新しい積層型の集積構造を有していることが分かった. 1-3について405 nmの半導体レーザを用いて光照射によるラジカルアニオンの生成を赤外スペクトルにて追随した. 1650 cm-1付近に観測された中性のC=O伸縮振動は光照射とともに減少し, 1630 cm-1付近にラジカルアニオン由来の新たなピークを観測した. とくに2においてvC=Oの著しい減少を観測した. このように側鎖の炭素数に応じて分子配列および光反応性に違いがあることが分かった. 次年度は薄膜形成時の光反応性について検討し総括を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の計画は以下のようであった. (a) 化合物の合成・側鎖の炭素数を伸張したイミド類を逐次合成する. (b) 結晶化あるいは膜形成を行い, 得られた集積体の構造を決定する. (c) 密度・融点測定からパッキングの評価を行う. (a)については原料となる非対称ジアミンの合成を開発し側鎖のNNジアルキルアミンの炭素数が2, 4, 6, 12個の化合物の合成に成功した. 開発した非対称ジアミンの合成はその他の炭素数にも適用ができる方法である. (b) 側鎖のアルキル炭素数が4個の化合物について単結晶構造解析を行い, 新しい交差型のパイ積層構造を見出した. 他の化合物については粉末X線回折によりパッキングについて評価を行った. 集積体の構造決定ついては概ね順調である. 一方で, 薄膜形成についてはガラス基板上への薄膜化が困難であり当初の計画より進行は遅れている. ガラス基板への配向膜あるいはケイ素保護剤を用いた検討により解決を試みている. (c)については示差熱熱分析を行い, 鎖長の伸長とともに融点が降下する知見が得られた. 平成29年度の計画を先行して, 得られた化合物の光反応性について赤外スペクトルを用いて検討を行った. 鎖長の違いにより反応性の違いが見られた. 今後は薄膜の作成とそれらの光化学反応性について精査して総括を行う.
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は「光アクチュエータとしての長鎖アルキルアミンを側鎖に有する芳香族ジイミド類の積層型分子配列の構築と鎖長依存と分子充填が及ぼす影響」について引き続き, 化合物の薄膜形成を詳細に検討しその光化学反応性について精査する. また平成28年度で得られらた集合構造およびパッキングに関する知見を合わせ総括を行う. 他方, 平成29年度後半は「親水性および疎水性側鎖をもつ芳香族ジイミド類のベシクル構造体の構築と光照射による機械的応答のサイズ効果」について研究を進める. 具体的には非対称な側鎖をもつイミド類の合成, 得られた化合物からベシクル体を形成. 溶媒・濃度・温度などの条件検討を行いサイズの異なるベシクル体を調製する. 反応部位のアミノ基が, 外側・最深部にあるベシクル/中層にあるベシクルを合成的にあるいは集合体の形成条件によって作り分けを検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
平成28年度は化合物の合成の検討を重点的に行ったため物品費の執行額が予想以上に少なかった. また成果発表のため多くの学会に参加したが国内が主であったため執行額が計画より少なかった. 平成29年度は, 分光測定の研究計画が含まれるため予算を計画通りに執行できると考えられる.
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次年度使用額の使用計画 |
分光測定の研究計画が含まれる. 主に顕微鏡周辺およびピエゾ評価の物品を充実させ成果に結びつける. また成果発表も積極的に行い旅費の執行を図る.
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