研究実績の概要 |
本系での光照射による機械的応答の推進力は, ラジカル種による静電的な相互作用による電荷の反発あるいは分子の再配列であると提案している. 分子間に側鎖のアミノ基が近接するとメカニカル効果を示す. 今回研究を進める過程で, 側鎖のアルキル炭素数を4つにした化合物が固体状態で構造相転移を生じることがわかった. 転移の前後で光応答が異なる. これらの挙動について速度論的な解釈とラジカル種の緩和について検討した. 単結晶X線構造解析の結果, 分子はb軸に沿ってπ-πスタックのカラムを形成し, π平面とπ平面が交差型に重なったいわゆるH型会合体様の集積構造をしてた. 示差熱分析から105°C付近に吸熱ピークが観測され, X線回折より構造転移が生じていることが分かった. 固体の13C NMRから転移後の構造は高い対称性を保持した構造をしていることが分かった. 薄膜での吸収スペクトルより転移後の集積構造に関する知見が得られ, 転移によりH型の会合様式からJ型の分子配列へとその集合様式を変え再配列していることが明らかになった. 結晶内で分子の配向が異なることで, 光照射時の応答も異なる. 転移前の結晶は光照射により速やかに屈曲した. その変位はわずかであった. 他方, 転移後の結晶の応答速度は非常に遅い. 分単位での応答であった. この相違はラジカル種の緩和過程で説明された. 転移前ではその緩和は幅広く分散をした多くの過程が含まれているのに対して, 転移後では非常に狭い分布を有しその緩和は単緩和に近いことが分かった. また転移後が4倍強ほど見かけの寿命が長いことが分かった. 今回の研究を通して, 緩和過程は機械的応答を評価するのに重要な因子であることが分かった. このような機械応答の評価が, 結晶の巨視的応答と分子レベルのシグナルとの結びつけを理解する助けになることを期待する.
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