研究課題
新奇なπ共役骨格の創出を志向した合成化学は近年目覚ましく発展しており、有機ELや有機トランジスタ、有機太陽電池などをはじめとする“有機π電子”の潜在能力を基盤とした機能性π電子材料の開発が盛んに行われている。このような背景に対し、申請者は巨大π共役環状化合物である「環拡張ポルフィリン」分子に着目し、金属錯形成に特化した環内配位場の精密設計とπ電子と金属d電子との軌道相互作用を最大限利用する特異な構造およびそれらπ電子化合物群の光・磁性・触媒機能の発現を目指した。研究初年度においては、それぞれ[4n+2]π・[4n+1]π・[4n]π電子構造を基盤とするヘキサフィリン誘導体の多様な構造修飾・錯形成反応を精査することで、奇異な短波赤外発光性の芳香族金属錯体の合成に成功した。メゾ位を介した長軸方向のπ共役の伸長が分子の発光強度の増大に効果的であることが明らかとなった。また環収縮型ヘキサフィリン二核銅(II)ラジカル錯体を新たに単離同定することに成功した。銅中心の形式酸化数を詳細に解析し、銅イオンーラジカル間の磁気的相互作用を解明した。また酸化還元反応による磁気挙動の制御を達成した。環状異核金属配位子として働く非対称ヘキサフィリン誘導体の合成および構造解析に成功し、分子認識能を持つ触媒に向けた重要な基盤分子が得られた。来年度は、上記の知見を活かし、金属イオンの配位を鍵とした分子固有の柔軟な骨格とπ電子数の自在制御による機能性材料へと展開する。
1: 当初の計画以上に進展している
計画初年度として、形式π電子数の異なる環状金属錯体の合成を中心に、下記の結果が得られた。1)26πヘキサフィリン二核金属錯体の骨格修飾反応においては、ディールズアルダー反応によるβ位還元型誘導体の合成が達成され、またメゾ位にエチニル置換基を導入することで、分子の長軸方向のπ共役伸長誘導体の合成に成功した。実際に期待したQ帯吸収帯の強度増強が観測され、付随して短波赤外発光量子収率の増大が達成された。2)25πヘキサフィリンラジカル金属錯体を基盤として、新たに金属dスピンとπラジカルを有する安定ヘテロスピン錯体の合成に成功した。金属イオンとして銅(II)イオンを用いた二核錯体は特異な反強磁性相互作用を有することが明らかとなり、酸化還元反応によりそれぞれ反芳香族性カチオン種および芳香族性アニオン種を与えることが明らかとなった。3)4nπ反芳香族電子構造を持つ新たなヘキサフィリン誘導体の合成に成功し、配位環境の異なる非対称型異核金属錯体へ誘導することが出来た。以上のように、3つの主軸となるテーマにおいて、それぞれ大きな進展がみられており、更なる誘導体の最適設計・合成アプローチが明らかになりつつある。
当初の計画に従い、短波赤外レーザ色素の創成に向けて、更なる強発光性分子の合成と電子構造の理論解析による分子設計の最適化を試みる。また分子の励起状態の挙動について精査することで発光特性の解明を目指す。多電子・高スピン金属種との複合化と環内配位環境の化学修飾による、多電子受容能を示す開殻π共役錯体を合成し、非線形光学材料としての構造物性相関の理解を目指す。今年度、新たに得られた非対称異核金属錯体の触媒反応への展開を目指す。研究全体として、以上のヘキサフィリン類縁化合物の合成化学を軸に、構成π電子数を自在に制御することで相互に連動する分子システムの構築を目指す。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 7件、 査読あり 7件、 謝辞記載あり 5件) 学会発表 (26件) (うち国際学会 6件、 招待講演 1件)
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