研究課題/領域番号 |
16K05700
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
石田 真敏 九州大学, 工学研究院, 助教 (60706951)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 環拡張ポルフィリン / 芳香族性 / 複核金属錯体 / 近赤外光 / πラジカル |
研究実績の概要 |
本研究課題では、18π電子以上の巨大なπ共役電子構造へ金属d電子軌道を複合化させることで誘起される特異な光・磁気特性の発現を志向して、環拡張ポルフィリンを基盤骨格とした複核金属錯体の創製と機能開拓を目指している。環状配位子の構成π電子数の自在制御と錯体構造ー物性相関の解明により、新たなπ電子材料への設計指針となることを期待している。 計画研究の二年目において、近赤外[4n+2]π電子構造を有するヘキサフィリン誘導体の内環の配位環境を非対称とすることで、合理的な異種金属錯形成および26π芳香属性ポルフィリノイドの光吸収遷移様式の制御を達成し、1000nm以上の短波赤外光吸収能を有する黒色色素の開発に成功した。 またヘキサフィリン骨格の環縮小により得られた安定開殻[4n+1]πラジカル錯体の内環配位環境を変調させることで、予備的な知見ではあるが、ラジカル錯体の安定性および分子間SOMO-SOMO磁気相互作用の制御が達成された。 さらに同様なヘキサフィリン誘導体の内環配位環境の制御により、新規[4n]π電子誘導体の合成を達成し、二核金属錯化によりヘリカル捻じれ構造を有する[4n+2]π電子芳香族錯体分子の創製を達成した。さらに、この分子が触媒利用を志向した異核金属配位子プラットフォームとなることが明らかとなった。 以上の環状配位子の設計アプローチによる系統的な構成π電子数の制御とその固有の分光・磁気・電気化学特性との相関解明のおいて重要な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
計画二年次の成果として、形式π電子数の異なる環状金属錯体の合成を中心として、特に環状分子の内環配位環境を設計制御することで、新奇なπ電子化合物の創製が達成された。例えば、内環に一部カルボニル基を有する26π電子系ヘキサフィリン誘導体の異核金属錯体において、可視光吸収遷移の複雑化による黒色色素分子の合成に成功し、ヘキサフィリン誘導体を基盤としたパンクロマティック色素設計指針が得られた。さらに、25π電子系ラジカル錯体分子の設計においても、内環配位環境を制御することで、異なる電子構造および金属ー配位子間の共有結合性の違いに由来する固有の反応性および分子間相互作用が現れることが明らかとなった。 また環内のカルボニル基の立体的な相対位置を制御することで、負のガウス曲率をもつ非平面ヘキサフィリン金属錯体の合成を達成し、歪んだπ共役系に埋め込まれた開殻金属d電子スピン間の相互作用が著しく大きくなることが明らかとなった。 以上のことから、全体として当初の計画以上に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画最終年度では、上記のような環状π共役分子の内環配位環境の制御による奇異な光学特性の発現と応用材料の開発とともに、さらにコア骨格周辺の修飾により発光特性の制御を志向した分子構造の最適化を行う。この合成アプローチにより、既存のEr金属を基盤としたテレコム材料の置換を志向したπ電子色素の創製を目指す。 さらに、奇数π電子系錯体を基盤として、多電子・高スピン金属種とπラジカル錯体の複合化による逐次レドックス活性非線形光学材料の開発を目指す。同様に、巨大π電子系非対称異核金属錯体によるレドックスノンイノセンス性と触媒機能の発現を目指す。 以上のヘキサフィリン類縁化合物の構成π電子の自在制御を基軸として、金属d電子ーπ電子相互連動型分子システムの学理解明を目指す。
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