研究実績の概要 |
アゾメチンイリドと活性アルケンと1,3-双極子環化付加反応によりピロリジン誘導体が合成できる。一方,ピロリンエステルは環状アゾメチンイリド前駆体であり,これらは還元によりピロリジンのビルディングブロックとなる。先行研究では,マレイミドとの反応では1,3-双極子環化付加反応が,ニトロアルケンとの反応では1,4-共役付加反応が進行するという知見を得ている。本研究ではピロリンエステルとエノンやニトロイソキサゾールなどの活性アルケンとの反応を独自のキラル銀錯体触媒を用いて検討を行った。 まず,ピロリンエステルとベンザルアセトンのようなエノンとの反応では1,4-共役反応が立体選択的に進行し,単一のジアステレオマーが高エナンチオ選択的に生成した。この反応の適用限界を研究したところ,ベンザルアセトン誘導体としてベンゼン環に電子吸引性基および供与性置換基が結合した化合物が使用することができ,置換基の電子的性質にかかわらず,高立体選択的かつ高収率で生成物が得られた。また,ピロリンエステルの置換基として電子豊富および不足のアリール置換基のいずれも使用することは可能である。生成物をシアノボロヒドリドを用いて水素化したところ,分子内環化・水素化の連続により,縮環ピロリジジンエステルが単一のジアステレオマーとして生成した。この縮環ピロリジジンは生物活性が期待される化合物である。 次に,独自のキラル銀錯体触媒を用いてピロリンエステルとニトロイソキサゾールとの反応を検討した。1,4-共役付加反応が立体選択的に進行し,単一のジアステレオマーが高エナンチオ選択的に生成した。本反応により,ピロリンとイソキサゾールの二つのヘテロ環部位を持つ光学活性ハイブリッド分子の構築が可能となり,その生物活性に興味が持たれる。不斉1,4-共役付加反応が分子のハイブリッド化に有効な手段であることを明らかにした研究と位置づけられる。
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