研究課題/領域番号 |
16K05707
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
渡辺 信子 神奈川大学, 理学部, 助教 (40291744)
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研究分担者 |
松本 正勝 神奈川大学, 付置研究所, 名誉教授 (10260986)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 化学発光 / ジオキセタン / 固体発光 |
研究実績の概要 |
本研究は、ヒドロキシアリール置換ジオキセタンの結晶を初めとした固体状態における分子間水素結合を積極的に利用し、先例のない固相での高効率化学発光を実現しようとするものである。 29年度は、ジオキセタンの固体状態でのCTIDを誘発するトリガーのひとつの候補として有機塩基について、まず溶液中でのトリガリング試薬としての可能性を検討した。これまで有機塩基は、化学的励起種を無輻射失活させる可能性のあることからCTID型ジオキセタンのトリガリング試薬としてほとんど検討されてこなかった。 そこで母核の3-ヒドロキシフェニル置換ジオキセタン、4-ベンゾオキサゾリルおよび4-ベンゾイミダゾリル基を有するヒドロキシフェニル置換ジオキセタンを使用し、5種の異なる有機超塩基(BTPP、TBD、MTBD、DBUおよびTMG:pKa,28.4-23.4)によるトリガリングをアセトニトリル中で検討した。母核および4-ベンゾアゾリル-3-ヒドロキシフェニル体および3-ヒドロキシ-5-メトキシフェニル体では、TBAFと遜色ない極めて効率のよい発光を示し、有機超塩基がトリガリング試薬として有用であることがわかった。さらにジアニオンの発光が可能な、3,5-ジヒドロキシフェニル体では、用いる有機超塩基の強さに応じてモノアニオン、ジアニオンによる発光が進行するだけでなく、2官能基性の環状グアニジン塩基であるTBDでは、2つ目のTBD分子がヒドロキシ基とイオンペアーあるいは分極した水素結合を形成すると同時に、TBDの残されたNH基がジオキセタン環O-Oと水素結合することにより、分解速度が加速され、発光効率が良くなるという極めて特徴ある発光を示した。これらの結果を2報の論文にまとめ報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本申請研究では、ヒドロキシアリール置換双環性ジオキセタンのトリガーヒドロキシ基とジオキセタン環酸素あるいはテトラヒドロフラン環酸素間での水素結合、あるいはHBアクセプターとなる中性分子との分子間水素結合を形成させ、加温により固相でCTID型の分解を誘起、高効率発光を進行させようとするものである。 本研究の候補ジオキセタンとして検討を行っている4-ベンゾアゾリルを有するヒドロキシフェニル置換ジオキセタンはいずれも高い熱安定性を有し、その熱分解の進行にはかなりの高温を必要とする。そこで固体状態でジオキセタンのCTID型発光を積極的に進行させるため、プロトンアクセプターとして有機超塩基の利用を考えた。29年度にはまず有機超塩基によるジオキセタンの発光分解を検討し、有機超塩基がジオキセタンの効率の良いトリガリング試薬となり得ることを見出した。また、その分解速度が使用する有機超塩基のpKaに応じて変化することから、逆にジオキセタンの発光からpKaを見積もる可能性が示唆された。 さらに3,5-ジヒドロキシフェニル体では、2個目のTBDのNH基がジオキセタン環O-Oと水素結合することによりジオキセタンの分解速度を加速させること、また芳香環を発光効率のよい配座に固定する効果があることがわかった。この有機超塩基系について、主に検討を行ったアセトニトリル以外の溶媒での測定、発光種となるカルボニル化合物についてその電子吸収スペクトルと蛍光スペクトルに関しても基礎的な測定を行ないデータの収集を行った。ベンゾイミダゾイル体については、N-位置換基の違いにより合成経路の変更と大量合成のための反応条件の検討を行った。有機超塩基系という新たな発光系の利用が可能となったが、固相発光への展開まで至っておらずやや遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
29年度の研究成果をもとに、4位にベンゾアゾリルを有する3-ヒドロキシ、3-ヒドロキシ-5-メトキシそして3,5-ジヒドロキシ置換ジオキセタンを中心に固相発光の検討を進める。 まず、固体発光の検討のため候補となる4-ベンゾオキサゾリル体および4-ベンゾイミダゾリル体については主に検討を行ってきたN-Ph体についてグラム単位での合成を行う。4-ベンゾイミダゾリル体については、他のN-MeおよびN-H体等の置換体について予備的な検討を行い、本研究の候補ジオキセタンとなり得るか判断する。 また、ジオキセタンとHBアクセプターとなるウレアおよびアミド、プロトンアクセプターの有機超塩基との混合固体での熱分解から開始し、共晶形成によるCTID型発光系の構築を行う。固体発光系の量子収率測定系の確立を行い、CTID型ジオキセタンの固相発光の定量化を行う。有機超塩基系の基礎検討の一環として、溶媒の発光に及ぼす影響を検討しまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由: 29年度は有機超塩基系について基礎的な検討として溶媒系での検討を行ったため、以下の点で使用額に違いが生じた。1)蛍光測定用積分球の装置改良として計画していた、測定試料装着部への加熱装置の組み込み等を行わなかった。2)候補ジオキセタンの大量合成に必要な試薬や、ジオキセタンとHBアクセプターとなるウレアおよびアミド、プロトンアクセプターの有機超塩基との固相での検討に必要な試薬類の購入がなかった。本研究の採択決定が28年10月からのため、全体的にその遅れを取り戻せていない。
計画:上記理由の項に記載したような遅延している計画について、特に2)についてできる限り早急に実施する。
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