研究実績の概要 |
本研究は、ヒドロキシアリール置換ジオキセタンの結晶を始めとした固体状態における分子間水素結合を積極的に利用し、先例のない固相での高効率化学発光を実現しようとするものである。 2019年度は基礎的な検討として、ジオキセタンの固体分解の速度論解析を行った。4位アルキル鎖の異なる1-(4-benzoazolyl-3-hydroxyphenyl)-3,3-dimethyl-2,6,7-trioxabicyclo[3.2.0]heptane構造のジオキセタン3種を用い、融点測定用キャピラリー中でこれらの熱分解を行い、その経時変化を1HNMRを用いて追跡したところ一次反応速度式に従って分解し、定量的に相当するケトエステルを与えることが分かった。この分解を3点の温度で行い、ジオキセタンの固体熱分解における活性化パラメーターを初めて算出した。 また、固体での高い蛍光性を有するp-フェニレン骨格を導入したジオキセタンが、水系媒体中で極めて効率のよい発光を示すことを見出し報告した。特に2-hydroxy-p-terphenyl-4-yl置換体は、20当量の界面活性剤を添加することで量子収率0.14と極めて高い効率を示した。水系で発光効率の激減する3-ヒドロキシフェニルジオキセタンでは共に非プロトン性極性溶媒であるDMSOとアセトニトリル(AN)中での発光に大きな差があるのに対して、上述したタ―フェニル体ではそのような差が小さい。このことからDMSOとAN中での発光効率の差の大小が水系での発光効率の良し悪しを推定する指標となることを提示した。 本研究ではこれまでに、有機超塩基がCTID型ジオキセタンのトリガー試薬として有用であることを見出し報告した。これら有機超塩基、またアルカリ炭酸塩のような無機塩基をジオキセタンと混合粉砕することで、固体状態でジオキセタンのCTID型発光が起こることを見出した。
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