本課題では炭素-炭素結合形成反応を利用することで、グラフェン型分子の迅速・大量合成法を開発することを目的とした。 最終年度は硫黄もしくはセレン原子を含む新規なカチオン性芳香族化合物の合成と性質解明を行った。市販化合物を出発物質として、数段階の工程を経て硫黄もしくはセレン原子を含むキノイド前駆体を合成した。これらに酸化剤としてフルオロほう酸ニトロソニウムを作用させたところ、ほぼ定量的に目的とするジカチオン性芳香族化合物を合成することに成功した。分子構造は紫外可視近赤外線吸収および核磁気共鳴分光法で決定した。前者では極大吸収が842 nmに観測され、理論計算結果から考察するとこの電子遷移は芳香族類のパイ-パイ*吸収に由来することが明らかになった。後者では環骨格の水素原子の共鳴線がすべて低磁場領域に観測され、これは芳香族環電流の存在を支持している。このように硫黄もしくはセレン原子を含む新規化合物はパイ電子に由来する報告族性を有していることが明らかになり、報告族性の定義拡張に有用な指針を与えることができた。 さらに、これら新規物質の導電性を測定したところ、骨格内に硫黄もしくはセレンを含む既存化合物と比較し、高い導電特性を示すことが明らかになった。骨格内に高周期典型元素を導入することが、導電性向上に寄与していると考えられ、今後の機能性物質の設計に有用な指針を示すことができた。 これらの研究成果は国際的な論文誌に報告することができた。
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