研究実績の概要 |
ヘリセンは芳香環がオルト位で縮環したらせん状の非平面多環式芳香族化合物であり、末端同士の立体反発によるキラリティーを有する。π電子の相互作用にキロプティカル特性を活かした新しい有機材料の利用が期待されている。しかし、ヘリセンの合成には一般に多段階を要し、蛍光量子収率も低いことが課題であった。本研究では入手が容易な p-フェニレンジアミンを出発物質として含窒素複素環塩化物への芳香族求核置換反応、あるいは Buchwald-Hartwig アミノ化によってアザヘリセン前駆体を合成した後、系中で調製した超原子価ヨウ素を用いて連続的な N-H/C-H カップリングを行うことで,市販試薬からわずか2工程でポリアザ[5], [7], [9]ヘリセンを合成し、それらの光物性を評価した。その結果、テトラアザ[7]ヘリセンの蛍光量子収率は最大 58 %に達し、円偏光発光特性(CPL)は有機化合物の中で高い値を示すことを明らかにした。また、 Buchwald-Hartwig アミノ化反応を段階的に行うことで,異なる環を導入した後,環化反応を行う非対称型の3工程合成法も確立し、 [7]-及び [8] ポリアザヘリセンの合成にも成功した。以上の方法で,合計6種の縮環数や縮環様式の異なるポリアザヘリセンを合成し,それらの物性を光評価した。その結果、円偏光発光の異方性因子(glum値)はヘリセンの縮環数に大きく依存して、環数の増加と共にその値は大きくなり、[9]ヘリセンでは2.7x10-2に達した。緑色の大きなglum値を有する円偏光を発する有機分子は珍しい点は特筆すべきである。一方,蛍光発光波長は環数や導入された窒素原子の数により大きく影響されるがことがわかった。
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