本プロジェクトでは、申請者らがこれまでに報告してきた可視光に吸収をもつ界面分子エピタキシャルデバイスの構築技術を基盤として、研究開発の進んでいない近赤外に吸収をもつ分子デバイス構築のための分子技術を確立することを目的として研究を遂行した。本研究では、可視光領域に強い吸収をもち、かつ積層の観点から平面構造を有するフタロシアニン誘導体に着目した。平面性のフタロシアニンは基板上で相互作用を発現しながら積層するため、集積により吸収波長を自由に制御できるのではないかと考えた。 フタロシアニンの中心にシラノール部位を有する誘導体を合成し、電極上での集積挙動を検討した。その結果、フタロシアニン誘導体の積層度合いに応じて、近赤外領域に吸収帯が連続的に大きく動くことを見出した。吸収帯は1200ナノメートルまで及ぶこともわかった。このようにして作製したデバイスの光電流測定を、硫酸ナトリウムを電解質とする水溶液中で行ったところ、可視域での電流発生はほとんど観測されなかった。一方で、近赤外領域である800ナノメートルよりも長波長側で大きな電流を発生することが明らかとなった。 これらの結果から、本プロジェクトでは、申請者らがこれまでに報告してきた可視光に吸収をもつ界面分子エピタキシャルデバイスの構築技術を基盤として、フタロシアニン誘導体を用いることにより未開拓であった近赤外領域に強い吸収をもつ分子デバイス構築のための分子技術を確立することに至った。また、構築したデバイスは近赤外領域において効率よく光電流発生することを明らかとした。そのため、従来のように蒸着などの大掛かりな装置や無駄なエネルギーを利用することなく,簡便な方法でシースルー太陽電池の構築が実現できるため,30年後のクリーンエネルギー供給の1プランとなることが期待できる。
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