研究課題/領域番号 |
16K05716
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
島崎 優一 茨城大学, 理学部, 准教授 (80335992)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | フェノキシルラジカル / ニッケル / 空気酸化 |
研究実績の概要 |
過塩素酸ニッケル(II)と2つのフェノール基を有する三脚型配位子を用いて、ニッケル錯体を合成したところ、加える塩基の量により異なる錯体が得られた。トリエチルアミンを配位子に対して一等量加えた場合、フェノラートが配位する他、脱プロトン化していないフェノールがニッケルイオンに近接した単核の(フェノラート)(フェノール)錯体(1)であることが判明した。錯体1は空気中で徐々に青灰色の化合物へと変化することが判明した。この反応において、酸素分子が酸化剤として反応に関与しているが、メタノール雰囲気下では反応が極めて遅くなることが判明した。さらに、結晶中のメタノールをエタノールやベンジルアルコールに変えると反応が遅くなることから、メタノールが関与していると考えられる、この反応を反射スペクトルで追跡したところ、近赤外領域から紫外部まで幅広い範囲でスペクトル強度の増大が観測された。ESRスペクトルから、ニッケルイオンとラジカルが反強磁性相互作用した化学種であることが示唆された。 この化学種をさらに空気中で放置するとゆっくりではあるが、徐々に褐色の化学種へと変化した。得られた化学種は600 nm付近のブロードなピークが消失し、報告されているNi(II)ーフェノキシルラジカル錯体に類似したスペクトルを示した。ESRスペクトルはNi(II)とラジカル電子が強磁性的相互作用した特徴的なシグナルを示した。また、ラマンスペクトルは、1493 cm-1にフェノキシルラジカルν7a由来のバンドを観測したことから、最終的に得られた褐色の化学種はNi(II)ーフェノキシルラジカルと帰属される。以上の結果より、単核錯体1を酸素雰囲気下で放置すると、青灰色のラジカル中間体を経て、フェノキシルラジカル錯体へと変化することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の大きな目標である、空気酸化によるフェノキシルラジカル錯体の生成については、三脚型配位子を用いた単核ニッケル(フェノラート)(フェノール)錯体を用いることで空気中の酸素分子による酸化反応が進行し、Ni(II)ーフェノキシルラジカル錯体の生成が確認されたことから、本研究の第一歩を順調に踏み出せたと考えられる。しかしながら、現在のところ、空気酸化によるフェノキシルラジカル錯体の生成は本錯体1例に留まり、さらに固体状態での反応であることから、系統的な理解ならびに反応性の検討が難しいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に引き続き、空気酸化で得られた酸化体の結晶化並びにそれらの固体物性について、いくつか類似の三脚型配位子を用いて錯体の合成ならびに酸化能について検討し、酸化体についてXPS、XANESを用いて検討する。また、金属(II)-フェノラート種や金属(II)-フェノキシルラジカル種については磁気的性質を明らかにするため、磁化率の温度、磁場変化の測定を行い、その結果とXPSやXANESの結果とあわせ、金属イオンの価数から正確な電子状態を調べる。それらの結果をもとに、より正確な電子分布を求めるためDFT計算などで検討する。また、単離した空気酸化によって生成した酸化体の酸化能について検討する。特に異なる電子状態が得られた場合には、金属(II)―フェノキシルラジカルと金属(III)-フェノラート錯体の違いを明確にするため、一級アルコールの酸化能について生成物の同定ならびに速度論的な観点等から検討し、これまでに得られた一電子酸化体である銅(III)-フェノラートと銅(II)-フェノキシルラジカルとの比較をすることで、どのような違いがあるか考察する。さらに、ニッケルイオンを有する一連のsalen誘導体の有機基質に対する酸化能を検討するため、一級アルコールのほか、様々な酸化可能な基質との反応性について、ガスクロマトグラフや液体クロマトグラフを用いて検討する。そしてこれらの実験をまとめ、考察することで中間体の電子構造が基質との反応性に及ぼす影響について考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
消耗品購入のための物品費の一部がカタログに記載されていた金額よりも若干安かったためである。
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次年度使用額の使用計画 |
残高460円は次年度の直接経費と合算し、試薬、ガラス器具等の消耗品購入のための物品費として使用する。
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