ガラクトースオキシダーゼは単核銅含有酵素であり、一級アルコールを酸素分子によりアルデヒドに酸化する酵素である。この酵素の活性型は銅(II)-フェノキシルラジカル状態であることが知られ、ここにアルコールが接近することで、アルデヒドへと変換され、銅(I)-フェノール種へと還元される。この銅(I)-フェノール種が酸素分子と反応し、再び銅(II)-フェノキシルラジカルが再生されることで、触媒として機能していると提案されている。このようなフェノキシルラジカル錯体を空気酸化により生成することを目的とし、様々な錯体について検討したところ、空気酸化による銅(II)-フェのキシルラジカル錯体の生成を見出した。このラジカル錯体の単離ならびに結晶構造解析に成功し、電子状態の詳細について検討した。 異なる2つのフェノール基を有する三脚型配位子を用い、過塩素酸銅(II)と配位子に対して二等量のトリエチルアミン存在下、不活性ガス雰囲気下で反応させたところ、褐色の錯体が生成した。ここに酸素を添加すると、ジメチルアミノフェノキシルラジカル由来と考えられる特徴的な吸収帯を510 nmに示す錯体へと変化した。空気酸化後の錯体のESRスペクトルは酸化前の錯体とは異なり、不活性であったが、空気酸化前後で錯体のXAFSにおいて、XANES領域に現れるpre-edgeの変化が観測されなかったことから、空気酸化後の錯体は銅(II)-フェノキシルラジカル錯体であると帰属した。これらの錯体のX線結晶構造解析の結果、両錯体は単核錯体であり、同様な配位構造であることが判明した。しかしながら、空気酸化後の錯体のジメチルアミノフェノール部位と銅イオンとの結合Cu-Oの距離は酸化前の錯体のCu-O結合距離よりも長くなっていた。これらの結果から、空気酸化によりジメチルアミノフェノキシルラジカル錯体が生成することを見出した。
|