研究実績の概要 |
外部刺激により環境応答型発光性クロミック挙動を固相で発現する新規な金属錯体の開発とその反応性メカニズムの解明を目的として本研究を行った。 ヒドラジン誘導体とカルボニル化合物を脱水縮合して得られるヒドラゾン化合物は,イミン上のN原子が金属に配位すると,隣接するN原子上のプロトンの酸性度が増大し,プロトンの付加・解離が容易に起こる。また,これらのヒドラゾン化合物を配位子とした金属錯体では,配位子上のC=N二重結合が,加熱や光照射により可逆な(E)-(Z)異性化反応を起こす。本研究では,ピリジン部位あるいはキノリン部位を有するヒドラジン誘導体と配位可能なホスフィン部位を有する芳香族アルデヒドから誘導したヒドラゾン配位子およびアゾ配位子を用いて各種金属錯体を合成し,プロトンの付加・解離および(E)-(Z)異性化にともなう結晶色や発光性の変化について検討を行った。主としてヒドラゾン化合物を配位子とする新規なCu(I)およびAg(I), アゾ化合物を配位子とするPd(II)錯体を合成してその構造を単結晶X線構造解析により明らかにし,加熱や光照射とともに,溶液中での酸・塩基の添加,また塩化水素あるいはアンモニア蒸気への暴露により発現する固相での結晶色や発光性の変化と,その原因となる錯体の構造変化を明らかにした。 Cu(I)錯体では,合成条件により大きく色の異なる極めて多様な配位様式を有する単核錯体が主に生成し,酸や塩基の添加による可逆な配位様式の変換が認められた。一方,Ag(I)では,主に二核錯体が生成し,ヒドラゾン配位子上のC=N二重結合に関する(E)-(Z)異性化反応が,溶液中だけでなく固相中でも発現して,これにともなう発光性のon-offあるいは結晶色,発光色の変化が認められた。Pd(II)錯体について顕著な発光性は確認できなかったが,固相での構造変化により大きな色変化が確認された。
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