研究課題/領域番号 |
16K05720
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
畑中 翼 大阪大学, 理学研究科, 助教 (80595330)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 小分子活性化 / 多核鉄錯体 / 低原子価 / 結合切断反応 / 還元反応 |
研究実績の概要 |
低原子価の鉄中心を有する多核錯体の研究は、これまでにカルボニルやホスフィンなどのπ酸性の配位子を有する安定な錯体を中心に行われてきたが、本研究では小分子の結合切断反応をはじめとする高難易度の反応を鉄錯体を用いて達成するために、電子供与性の高い配位子を有する新奇な低原子価多核鉄錯体を対象として研究を行った。まず高い反応性が期待できる配位不飽和な多核鉄錯体の合成を種々検討した結果、配位子の骨格の中央部分にベンゼン環を、配位子末端にかさ高い置換基を組み込むことで、目的とする多核錯体が高収率で得られることが分かった。さらに得られた錯体は容易に還元することができ、電子供与性の高いアミド部位を有しているにもかかわらず、鉄一価や0価を含む多核鉄錯体が得られることが分かった。還元した錯体のX線構造解析の結果、配位子骨格に組み込んだ芳香環部位と鉄中心とが弱く相互作用していることが確認でき、この相互作用により、電子供与性の高い配位子からの鉄中心の脱離を防げることができたのではないかと推測された。以上の知見を踏まえて、配位子設計の段階に再度立ち返り、置換基のかさ高さを調節した種々の配位子を用いて錯体合成および還元反応を行った結果、低原子価の鉄中心を有する二核、三核、四核、六核錯体を得ることができた。 また得られた錯体を用いた外部基質の活性化反応にも現在取り組んでおり、アゾベンゼンのN=N二重結合や、芳香族化合物のC-H結合が切断可能であることを見いだした。これまでに鉄錯体を用いて同様の反応を行った例は限られており、以上の成果は鉄を用いた基質変換反応の研究において重要な知見となりうると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成28年度の研究計画として掲げていた、多核鉄錯体の合成と低原子価種への誘導を行い、狙い通り種々の新奇な錯体を得ることができた。得られた錯体は結晶として単離し、X線構造解析により構造を確認した。またSQUIDやESR測定により磁気的性質の評価を行い、またメスバウアー測定の結果もあわせることで電子状態の考察を行った。その結果、得られた錯体は想定通り低原子価となっており、また鉄-鉄間に強い電子的な相互作用があることが分かった。平成29年度以降の計画としていた、得られた錯体を用いた基質活性化反応にも先行して取り組み、本研究の目標の1つであるN=N結合やC-H結合の切断が可能であることを見いだした。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度までに合成することができた多核鉄錯体を用いて、窒素分子、二酸化炭素、アルカン類の結合活性化反応を検討する。前年度までに合成した錯体の中には、窒素分子と反応可能な錯体もあることも既にわかっており問題なく遂行できるものと考えている。生成した錯体の同定方法としては、結晶として単離し、X線構造解析によって行うことを想定している。さらに各種分光法による測定やDFT計算を併せて実施することで、得られた錯体の電子状態の理解につとめる。また錯体分子の反応観察において一般的に用いられる基質などとの反応も検討することで、申請者が構築した多核鉄反応場がどのような性質を有しているのかを明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況の都合により、当初購入予定であった試薬、不活性ガスなどの消耗品の一部を購入しなかったため生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
生じた次年度使用額は試薬、不活性ガスなどの消耗品の購入に充てる予定である。
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