研究課題
有機金属錯体の光化学反応研究において、金属-配位子間結合の活性化は、これまで主に金属カルボニル錯体の光CO解離(電子遷移)や金属-金属、金属-炭素結合の光均一化開裂(1光子1電子移動過程)に関する基礎研究があるものの、金属ヒドリド錯体の光化学研究は未開拓と言える。生じる配位不飽和錯体は、多くの触媒反応活性種としての利用も期待できる。有機金属ヒドリド錯体(1)は、光脱プロトン化して低原子価イリジウム錯体 (2)が生成する。2はIr錯体 (3, L: 溶媒)と反応して2核錯体を生じる。同様にして各種金属ルイス酸(LA)、平面配位型金属錯体(ML)とは、Ir-LA-IrやIr-ML-Ir結合を有する多核金属錯体を生成させる。これら新規多核金属錯体の金属の組み合わせを最適化して水素放出を抑制し、複数金属の協同触媒作用を利用して、気体である一酸化炭素、二酸化炭素の高効率1光子多電子還元を実現することを目的としている。ギ酸、ホルムアルデヒド、メタノール等のC1化合物として選択的に液化固定できれば、温室効果ガスを削減して地球温暖化の抑制に寄与できる。初年度に二酸化炭素の触媒的還元によって一酸化炭素の選択的生成を可能とする人工光合成型光電気化学触媒系の構築に成功したが、1光子多電子還元の進行の観測には、レーザー時間分解分光計測が不可欠であることがわかり、2年目は特にサブナノ秒の時間分解能を有する最新の分光計測技術を取り入れることで光触媒反応機構解明について研究が進展すると同時に、金属錯体触媒を有機半導体と組み合わせて固体化することで、C1化合物の還元触媒として理論的に動作可能な固体デバイスへの展開も図った。
2: おおむね順調に進展している
初年度にちょうど所属研究室の主管教授の交代があり、予定していた測定装置等が使えない場合もあったが、早々にその困難な状況は打開した。現在は、新教授とタイアップして研究室所属学生の協力を仰ぎながら順調に研究を進めることが可能となっている。
当初の研究実施計画に沿って研究を進め、効率的な1光子多電子還元によって可能となる炭素資源の有効活用に関する研究を進める。今後も主管教授や研究室学生との協力体制を維持しながら研究を推進する所存である。
学内共通装置機器(リユース機器)を活用することで機器購入の経費を節約でき、使用料についても予想外に経費がかからなかった。研究情報収集のために旅費も計上していたが、招待講演などの機会をうまく利用することで旅費経費を節約できた。このように、準備段階から周到な計画を行うことで当該年度の研究推進に支障を来すこと無く研究経費の節約を行い、次年度のチャレンジ自由度を大きく広げることができた。最終年度は研究推進のために大学院学生の協力も仰ぎ、マンパワーも導入して研究を加速させるつもりなので、当初予定以上のペースでの経費使用が必要になると予想している。また、共同研究なども積極的に推進し、成果とりまとめに向けて研究をこれまで以上に進めたい。
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Macromolecules
巻: 50 ページ: 3544-3556
10.1021/acs.macromol.7b00213
分光研究
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