研究実績の概要 |
カルボン酸架橋ランタン型ルテニウム(II,III)二核錯体[Ru2(O2CR)4]+は、分子内のRu-Ru相互作用に基づき生じた分子軌道δ*とπ*が偶然に縮重しており、これらの軌道に3個の電子を収容する電子配置(S = 3/2)となっている。これまで、[Ru2(O2CR)4]+を基本ユニットと考え、これをヘキサシアニド鉄(III)酸イオン([Fe(CN)6]3-)(S = 1/2)やオクタシアニドタングステン(V)酸イオン([W(CN)8]3-)(S=1/2)で連結した3次元化合物が低温でフェリ磁性体となることが確認されているが、カルボン酸に導入した置換基(R)の嵩高さを利用して、得られる化合物の次元性を制御した研究例はない。本研究では、Rに3,4,5-トリアルコキシフェニル基を用い、嵩高さを導入することで、[Ru2(O2CR)4]+と[Fe(CN)6]3-あるいは[W(CN)8]3-が交互に配列した一次元ワイヤー型錯体を合成し、新規のフェリ磁性体化合物の開発することを目的として研究を行った。2016年度は、3,4,5-ヒドロキシ安息香酸のヒドロキシ基にエトキシ基に置換した3,4,5-エトキシ安息香酸(3,4,5-(C2H5O)3C6H2COOH)を合成した後、酢酸ルテニウム(II,III)と反応させることで、[Ru2{3,4,5-(C2H5O)3C6H2COO}4Cl]nを合成した。さらにAgBF4と反応させ得られた[Ru2{3,4,5-(C2H5O)3C6H2COO}4]BF4に[Fe(CN)6]3-を反応させることで、目的の化合物と考えられる褐色粉末を得た。合成経路を確立できたことで、今後の研究遂行ための重要な一歩となる成果を上げることができたと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3,4,5-ヒドロキシ安息香酸のヒドロキシ基にエトキシ基に置換した3,4,5-エトキシ安息香酸(3,4,5-(C2H5O)3C6H2COOH)を合成した後、酢酸ルテニウム(II,III)と反応させることで、[Ru2{3,4,5-(C2H5O)3C6H2COO}4Cl]nを合成した。さらにAgBF4と反応させ得られた[Ru2{3,4,5-(C2H5O)3C6H2COO}4]BF4に[Fe(CN)6]3-を反応させることで、目的の化合物と思われる粉末を得たことから、合成手法の確立という初年度の最も重要な課題を達成することができた。また、対象実験として必要なエトキシ基が導入されていない安息香酸ルテニウム四フッ化ホウ酸塩[Ru2(C6H5COO}4]BF4の合成できた。さらに、3,4,5-エトキシ安息香酸(3,4,5-(C2H5O)3C6H2COOH)を用いて、反磁性の[Rh2{3,4,5-(C2H5O)3C6H2COO}4]の合成もほぼ確立できた。以上より、概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
[Ru2{3,4,5-(C2H5O)3C6H2COO}4]+を[Fe(CN)6]3-で連結した一次元鎖ワイヤー型化合物の結晶構造の決定および磁化率の温度変化や磁場依存、FCMやZFCMの測定を行う。また、反磁性の[Rh2{3,4,5-(C2H5O)3C6H2COO}4]でも同様の実験を行い、ランタン型二核ユニットを介した[Fe(CN)6]3-の間の磁気的相互作用の大きさを見積もる。また、[Fe(CN)6]3-に加え、[W(CN)8]5-でも同様の実験を行い、シアニド錯イオンユニットの磁気的性質に及ぼす影響についても調べる。さらに、エトキシ基を有しない安息香酸イオンさらにはより嵩高いアルコキシをフェニル基に導入したカルボン酸イオンを分子内架橋とするランタン型ルテニウム二核錯体でも同様の実験を行うことで、一次元鎖間の違いが磁気的性質に及ぼす影響について調べる。また、分子内架橋配位子をカルボン酸イオンからアセトアミジナートイオンやホルムアミジナートイオンに変換し、架橋酸素原子が窒素に置き換わったことの影響も調べる。
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