研究課題/領域番号 |
16K05724
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
福岡 宏 広島大学, 工学研究科, 助教 (00284175)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超伝導 / Zintl相 / 共有結合性金属間化合物 |
研究実績の概要 |
1.カゴ状構造を持つ新しいイオン伝導体の合成 カゴ状構造を持つタイプI型ゲルマニウムクラスレートには、イオンが移動する隙間がないため、構造中にスペースを作ることを目的として真空下で加熱し、骨格構造を一部変化させた試料(イオンの動く経路を大きくした試料)を合成した。そのイオン伝導率を、昨年度に整備したイオン伝導度測定装置によって測定したところ、200℃以上の温度で10-4 Scm-1台の伝導率が観測された。おそらく系中のBaイオンが伝導していると推測される。まだ十分な伝導率ではないが、これによって、ゲルマニウムの共有結合骨格がイオン伝導体の骨格構造として利用可能であることが明らかとなった。一方、同様の方法で合成したシリコンクラスレートでは、イオン伝導性が観測されなかった。これは、ケイ素-ケイ素の共有結合距離と、ゲルマニウム-ゲルマニウム共有結合距離がかなり異なり、ケイ素の系ではイオンが伝導する経路の大きさがBaイオンに対して十分大きくなかったためと考えられる。
2.Lu-Y-Ge三元型ジャーマナイドの超伝導特性 ルテチウム(Lu)とイットリウム(Y)をゲスト元素として含む三元型ジャーマナイド(Lu, Y)Ge3を、LuとYの組成比を変えて合成し、生成物の構造、格子定数、および超伝導転移温度(Tc)を詳細に調べた。なお、LuGe3, YGe3はいずれもTcが3.4 K, 2,0 Kの超伝導体である。得られた三元型固溶体の格子定数がべガード則に従うことから、この系は全率固溶体を生成することがわかった。またそのTcは、YにLuを少量(20 原子%)固溶させた時、両エンドメンバーよりも高い4.0 Kを示すという興味深い結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、共有結合性金属間化合物の特徴的な骨格を利用して、機能性材料への応用を検討することを、大きな目標の一つとしているが、2017年度の研究によって、ゲルマニウムの共有結合でできた骨格を有する、カゴ状化合物の一つが、イオン伝導体の骨格構造として機能することを見出すことができた。測定には2016年度に整備したイオン伝導度測定システムを活用した。この結果から、ゲルマニウムからなる骨格の一部を、ケイ素やスズで置き換えた化合物や、13族、15族元素で置換した誘導体を作ることで、更なるイオン伝導性の向上を目指すことができる素地が固まったと言える。また、イットリウムとルテチウムの1 : 3型ジャーマナイドにおける固溶体を合成し、Y : Lu = 4 : 1の系で、Tcがその系で最高値を示すという興味深い結果を見出した。両方の端成分が超伝導体である三元型全率固溶体では、固溶体の超伝導転移温度(Tc)は端成分のTcの間の値を取ることが多いが、この系では、固溶系の方がTcが高くなっている。こうした現象は、以前当研究者らが見出したBa-La-Ge系においても観測されており、その理由の解明に興味が持たれる。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると判断している。
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今後の研究の推進方策 |
イオン伝導を示したゲルマニウムの化合物について、共有結合半径の異なる元素を導入することで、イオンが伝導する経路の大きさを変え、イオン伝導率の向上を目指す。具体的には、同族のケイ素、スズや、13族、15族元素によって、ゲルマニウムを一部置換した化合物を合成し、そのイオン伝導性を調べる予定である。更に、合成時にBa以外の2価(あるいは、1価、3価)のイオンを混合したり、合成した試料に化学修飾法によって他イオンを導入したりすることで、伝導するイオンの種類を変えた伝導体の合成を目指す。また、超伝導ジャーマナイドの系については、なぜ固溶体の方が、両エンドメンバーのTcよりも高いTcを示したのか、電子軌道計算の手法などを用いて解明する方針である。また、更に新しい超伝導体の探索も引き続き行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
想定していたよりも、高圧合成実験に使用する消耗品費が少なく済んだため、残金が生じているが、その金額は3万円弱であり、概ね予定どうり資金を消化出来たものと考えている。残金は最終年度の消耗品購入費に補てんして使用する計画である。
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