研究課題/領域番号 |
16K05726
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小澤 弘宜 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (30572804)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 錯体触媒 / 錯体色素 / 光電気化学セル / 水素生成反応 |
研究実績の概要 |
本年度は、小さな過電圧でも効率良く水からの水素生成反応を進行させることのできる錯体触媒の開発、これを用いた修飾電極の作製、および修飾電極の触媒機能評価を行った。
ピリジンアンカーを有する白金ポルフィリン錯体の合成を行い、これをメソポーラスチタニア薄膜に化学吸着させた修飾電極を作製した。この修飾電極を用いて、中性水溶液中における白金ポルフィリン錯体の電気化学的水素生成触媒機能の評価を行ったところ、本白金ポルフィリン錯体は50mV以下という極めて小さな過電圧下においても水素生成触媒反応を駆動可能であることが明らかとなった。また、チタニアの伝導帯下端の電位を印加した条件において長時間の定電位電解を行ったところ、白金ポルフィリンによる水素生成触媒反応の電流効率はほぼ定量的であることが判明した。定電位電解後においても白金ポルフィリンの分解などは見られなかったことから、白金ポルフィリン錯体は、50mV以下という極めて小さな印加電圧でも水素生成反応を駆動するとこができる非常に優れた分子性触媒であることが明らかとなった。
一方、ルテニウム錯体色素を修飾したメソポーラスチタニア電極をフォトアノード、白金ポルフィリン触媒を修飾したメソポーラスチタニア電極をカソード、犠牲還元試薬を含む水溶液を電解液として用いたモデルセルにおいて、フォトアノードのみに可視光照射を行うと、外部バイアスを印加しない条件においてもカソードからの水素生成反応が進行するという非常に興味深い現象を見出すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は上述のように、極めて小さな印加電圧下においても水素生成触媒反応を駆動することのできる優れた水素生成錯体触媒を開発することに成功した。白金ポルフィリンはチタニアの伝導帯下端のポテンシャルを用いて定量的に水素生成触媒反応を進行させることが可能であることから、本修飾電極は水の光分解反応を志向した光電気化学セルにおけるカソードとして理想的であると言える。
さらに、メソポーラスチタニア電極をアノード、およびカソードに用いたモデルセルにおいて、外部バイアスを印加することなく、アノードからカソードへ電子が移動するという興味深い現象を発見することにも成功している。すなわち本モデルセルにおいては、フォトアノード上のチタニアの伝導帯に充電された電子は、外部バイアスの印加を必要とせずにカソードへと移動し、白金ポルフィリンによって定量的に水素生成反応に消費される。 水からの水素生成触媒反応の進行に対して外部バイアスの印加を必要としないだけでなく、アノードかたカソードへの電子の移動にも外部バイアスの印加を必要としない本モデルセルは、これまでに例のない非常に優れた反応系であると言える。また、カソード材料として広く用いられているp型半導体と比べ、チタニアは非常に安定性が高いことも判明している。
以上のように、いくつかの先行研究と比較しても本研究成果の優位性は明白であり、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は太陽光水分解反応の達成を目指し、水からの酸素生成反応を駆動する酸素生成触媒と、色素分子で修飾したフォトアノードの開発に取り組む計画である。既に、酸素生成触媒としてピリジンアンカーを有するコバルトポルフィリン錯体の合成、修飾電極の作製、および電気化学的酸素生成触媒機能の評価は行っている。また、様々な置換基を導入することによって酸化還元電位を変化させたルテニウム錯体色素の合成も行っており、次年度は、これらを用いた光酸素生成触媒機能を示すフォトアノードの開発を目指す。
また、上述の酸素生成触媒が必要とする過電圧の大きさと錯体色素の酸化電位を上手くコントロールするという手法に加えて、チタニアの伝導帯から酸素性せ触媒への逆電子移動を抑制するための工夫も行い、光酸素生成触媒機能を示すフォトアノードの開発を目指す。すなわち、コバルトポルフィリンとアンカー基であるピリジン環との間にスペーサーを導入することにって、コバルトポルフィリンとメソポーラスチタニアとを空間的に離すことによって、逆電子移動反応の進行を抑制する計画である。
以上の様な手法によって目的とする光酸素生成触媒機能を示すフォトアノードの作製に成功した後は、これと白金ポルフィリンをメソポーラスチタニアに修飾したカソードを用いた光電気化学セルを構築し、ノンバイアスでの太陽光水分解反応の達成を目指す計画である。アノードでの酸素生成触媒反応とカソードでの水素生成触媒反応を同時に進行させるために必要となる因子を解明し、効率の良い水の完全分解反応の達成を目指す。
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