我々は、ルテニウム錯体色素を修飾したTiO2電極(アノード)と白金ポルフィリン水素生成触媒を修飾したTiO2電極(カソード)を導線のみで接続した外部バイアスフリーの分子性色素増感光電気化学セル(分子性DSPEC)において、犠牲還元剤の存在下、アノードに可視光照射を行うと、カソード上において水素生成触媒反応が進行することを報告した。本年度は、この分子性DSPECにおいて起電力が生じる理由、すなわち、高エネルギー電子がアノードからカソードへ移動する理由を明らかにすることを目的として研究を行った。 この外部バイアスフリーの分子性DSPECにおいて、両極の電極電位の差(起電力)を観測したところ、暗所下においては電位差が生じていないのに対し、アノードへ可視光照射を行うと、28μV程の電位差が生じることが明らかとなった。この電位差は、可視光照射のオンオフに対して迅速に応答すること、カソードに白金ポルフィリン無しのTiO2電極を用いた場合においても観測されること、そして犠牲還元剤を含まない電解液を用いた場合には観測されないことが明らかとなった。すなわち、この起電力はアノード上における連続的な光化学反応に由来するものであることが判明した。 ルテニウム錯体色素を修飾したTiO2電極を犠牲還元剤を含む電解液中に浸漬し、Ar雰囲気下において可視光照射を行ったところ、可視~近赤外領域(500~1200 nm)に及ぶ非常に広い波長範囲において、吸光度の増大が観測された。この結果は、可視光照射によってTiO2伝導帯に高エネルギー電子が充填されたことを示しており、これに伴ってTiO2のフェルミ準位が上昇することが判明した。従ってこの外部バイアスフリーの分子性DSPECにおいては、アノードのTiO2伝導帯への高エネルギー電子の充填に伴うフェルミ準位の上昇が、起電力として作用していることが明らかとなった。
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