研究課題/領域番号 |
16K05729
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
廣津 昌和 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (30312903)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | チオラート / 鉄錯体 / メタラサイクル / 光反応 / 一酸化炭素放出 / イソシアニド錯体 / ヒドリド錯体 |
研究実績の概要 |
「メタラサイクルで安定化したチオラート鉄錯体による触媒的水素化反応の開発」に向けて、平成28年度は以下の研究成果を得た。 (1)N,C,S-三座配位子とホスフィン配位子をもつチオラート鉄カルボニル錯体を合成し、その酸化還元挙動、電子状態、反応性について研究した。チオラート鉄(III)錯体としては初めての安定なカルボニル錯体を単離し、可視光照射による一酸化炭素放出挙動を明らかにした。この成果は著名な国際誌(Dalton Trans.)に速報として掲載された。さらに軸位のリン配位子をホスフィンからホスファイトに変更することで可視光照射による一酸化炭素放出挙動が大きく変化することを見出した。この要因を解明するため、これらの鉄錯体について計算化学による電子状態の解析を進めている。また、一酸化炭素放出後に生じる空配位座にイソシアニドを配位させて安定化することで、置換反応生成物の単離に成功した。 (2)上記のチオラート鉄(III)カルボニル錯体と水素分子の光反応により、水素分子の活性化を試みた。対照実験との比較により水素分子との反応に起因する変化を検出したものの、反応後の錯体が不安定であり、満足のいく結果は得られなかった。現在、適した反応条件や酸化状態を検討すると同時に、四座配位子に拡張することでより安定なメタラサイクル鉄錯体を構築する研究を進めている。一方で、メタラサイクル構造をもつチオラート架橋二核鉄カルボニル錯体をジホスフィン架橋配位子で安定化した錯体を合成した。この錯体を水素雰囲気下で光照射することにより、ヒドリド架橋鉄錯体が生成することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
N,C,S-三座配位子をもつチオラート鉄(III)カルボニル錯体の特異な安定性を明らかにし、本研究の基盤となる光誘起一酸化炭素放出挙動に関する基礎的知見を得ることができた。さらに研究を進めて軸配位子の効果を明らかにすると同時に、光誘起配位子置換反応についても研究を進めることができた。これらのチオラート鉄(III)錯体を用いた水素分子の活性化については、反応後の錯体の安定性が問題となることが分かったが、別のチオラート鉄メタラサイクル錯体において、水素分子活性化によるヒドリド錯体の生成を確認することができた。総合的に判断するとおおむね順調に進んでいるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
N,C,S-三座配位子をもつチオラート鉄メタラサイクル錯体の酸化還元挙動と電子状態の解明については順調に進展しているので、引き続き様々なリン配位子もつ鉄(II)、鉄(III)カルボニル錯体を合成し、その置換反応生成物とあわせて、実験と計算化学の両面から研究を進める。これらの鉄錯体を用いた水素分子活性化については、反応条件や配位子設計を再検討することで問題点の解決を図る。ヒドリド種の生成を見出した二核鉄錯体については触媒反応への展開を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
出発錯体の効率的合成法を確立することで消耗品費を節約することができたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度以降は国際会議等で出張旅費がかさむことが予想されるため、繰越金を旅費として使用する予定である。それ以外の使用計画については大きな変更はない。
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