研究実績の概要 |
前年度までの研究結果を踏まえて、平成30年度はチオラート鉄カルボニル錯体の安定性改善に向けた新規配位子の開発と錯体合成を中心に研究を進めた。 1.キノリル基をもつベンゾチオフェン誘導体を配位子前駆体に用いて、N,C,S-三座のチオラート配位子をもつ二核鉄カルボニル錯体を合成した。さらに、ホスフィン類と反応させることにより、単核のN,C,S-ピンサー鉄(II)カルボニル錯体へと誘導した。ピリジル置換ジベンゾチオフェン誘導体を配位子前駆体とする従来の錯体では、メタラサイクル周辺のビフェニル骨格にひずみが生じるが、新規に合成した鉄(II)錯体のメタラサイクルは平面性が高く、大きなひずみは見られなかった。一方、新規鉄(II)錯体の酸化還元挙動は従来の錯体と類似しており、鉄(III)カルボニル錯体とすることで光誘起CO脱離反応による配位不飽和種の形成が期待できる。 2.チオフェン誘導体を配位子前駆体とするメタラサイクル鉄錯体では、配位子の還元的脱離による分解を抑制することが課題となっている。そこで中央の炭素配位をN-ヘテロ環状カルベン(NHC)に変更した配位子を設計し、合成研究を進めた。硫黄ドナー部分をチオエーテルとして保護することで、硫黄ドナーと窒素ドナーをN-置換基とするイミダゾリウム塩を新規に合成した。次に錯体の合成を試み、前駆体となりうるNHC銀錯体を単離した。また、その銀錯体がN,C,S-三座配位子をもつ二量体構造をとることを明らかにした。 3.N,C,S-ピンサー鉄(III)カルボニル錯体の光誘起CO脱離反応について、実験と計算の両面から研究を進め、成果を国際誌(Inorg. Chem.)に報告した。
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