研究課題/領域番号 |
16K05733
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
山田 康洋 東京理科大学, 理学部第二部化学科, 教授 (20251407)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | レーザーアブレーション / 炭化鉄 / ナノ粒子 / 凝集 / 準安定相 |
研究実績の概要 |
炭化鉄微粒子生成用の密封型セルの開発を行った。円筒形のガラスセルの末端に凸レンズを直接接合し、レーザー光を導入した。これにより液面がレンズと接するため液面が乱れることはなく、アブレーションによって生じる気泡の影響を排除し、焦点位置の揺動を抑制することも可能となった。さらにこの密閉型装置を改造して、レーザーアブレーションに最適な試料位置の調整を簡便にし、生成した微粒子を効率良く捕集できるようにした。セル中の溶媒上部の空間にはアルゴンガスを封入し、空気との接触を避けた。このようにして有機溶液中に生成した炭化鉄微粒子を、グローブボックス中でとりだし、溶媒を除去した。これまで鉄微粒子を扱う場合には空気との反応が常に問題となっていたが、この装置によって空気との接触を防いだ一連の実験操作が可能となった。しかし、この密封型装置を用いた場合でも、生成した微粒子が溶媒中に浮遊し続けるために、レーザー照射を繰り返すことによってさらに反応が進行してしまう。これを防ぐために、レーザーアブレーション直後に生成した微粒子を溶媒中から速やかに除去・捕集するために、循環型装置を新たに制作した。微粒子捕集フィルターと循環ポンプを設置し、溶媒中での微粒子の光反応の影響を抑制した。さらに溶媒の全体量が増えたために、溶媒自身の光分解反応の影響も抑制できた。 金属鉄をアルコール中でレーザーアブレーションし、レーザーアブレーション直後の微粒子を透過型電子顕微鏡で観測したところ平均粒径16nmの球形であり、メスバウアー分光測定から安定相のセメンタイトのほかに準安定相の炭化鉄が含まれていることが明らかとなった。さらにこの粒子を再度アルコールに分散してレーザー照射を行ったところ、微粒子は凝集して100 nm程度に大きくなり、準安定相は消滅してセメンタイトになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
装置製作は順調にすすんでおり、当初予想していたレーザーアブレーションとそれに引き続くレーザー照射による変化を追跡することが可能となった。得られた炭化物微粒子は、粉末エックス線回折により構造を決定した。透過型電子顕微鏡によって形状・サイズを測定した。溶媒には予め脱気精製したアルコール(メタノールとエタノール)を用いた。溶媒の種類とレーザーフルエンスを変化させて得られた微粒子を測定した。炭化鉄微粒子の結晶構造については粉末エックス線回折と電子線回折によって直接的な情報が得られるが、混合物の組成比や長周期的構造をもたない成分の解析にはメスバウアー分光法が有効である。アルコールを溶媒として用いて生成した炭化鉄微粒子は微粒子の形状・サイズを反映した超磁性緩和が見られた。そこで、6 Kの低温での測定を行い、磁気構造に関する直接的な情報を得た。また、メスバウアースペクトル測定の感度を上げるために57Fe同位体濃縮した金属鉄をレーザーアブレーションのターゲットとして用いた。 メタノールを溶媒として用いるとレーザーアブレーションによってα-Fe, γ-Fe, 炭化鉄、アモルファスが混在していたが、エタノールを溶媒とすると、炭化鉄とアモルファスのみが生成した。この違いは溶媒1分子あたりの炭素数によるものと考えら得る。レーザーアブレーションで得られた微粒子を再度同じ溶媒中に懸濁してレーザー照射を行うと、微粒子のサイズが大きくなり、炭化反応が促進された。以上のように、溶媒中のレーザーアブレーションによる生成物は溶媒によって異なり、溶媒中に浮遊する微粒子のレーザー照射によって凝集しサイズが成長することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのところ、アルコールを溶媒として用いた炭化鉄微粒子生成を行ってきたが、準安定相の炭化鉄が混在することが明らかとなった。他の方法では効率よく生成できなかった準安定相炭化鉄の生成条件を探索する。さらに、アルコール以外の有機溶媒としてアルカン溶媒中での炭化鉄微粒子生成を行い、生成物に及ぼす溶媒の効果を明らかにし、微粒子生成機構を考察するためにデータを整備する。また、水を溶媒とすると、水酸化鉄や酸化鉄が生成することが予想されるため、酸化鉄微粒子の生成も探索する。 循環型装置を用いることによって常に生成した微粒子を除去しながら微粒子生成を行うことが可能となり、微粒子の溶媒中の光化学反応の影響を少なくすることができたが、これを発展させて、溶媒の循環速度・流量を制御することによっても、光化学反応の影響を調べることができる。レーザーアブレーションの直後に生成する微粒子はプラズマ蒸気が溶媒との衝突によって急冷されて核成長した結果のものであるが、浮遊した微粒子のレーザー照射によってはこれらが熱反応によって凝集成長したり格子欠陥を生じたりする場合が予想される。これによって微粒子が分解する場合にはむしろ準安定構造を持った炭化鉄微粒子の生成が促進されることになる。このような観点から、循環型装置の溶媒循環速度を最適な条件とすることが必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
装置製作に時間を要したため、実際の微粒子生成実験の開始時期が当初計画に比べて遅れ、消費した試薬の量が計画より小額であったため。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度からは製作した装置を使用した微粒子生成が本格的に開始するため、試薬の消費量は増加する計画である。
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