研究課題/領域番号 |
16K05734
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研究機関 | 愛知工業大学 |
研究代表者 |
梶田 裕二 愛知工業大学, 工学部, 准教授 (60397495)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 金属錯体 / 高原子価 / クロム / バナジウム / 窒素活性化 / トリアミドアミン |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、高原子価二核窒素錯体と高原子価ニトリド錯体を合成し、さらにアンモニアへ変換する手法を開発することである。この目的に対し、これまで我々はクロムを中心金属とする窒素錯体の合成を行い、配位子の基本骨格であるtren (tris(2-aminoethyl)amine) の末端N原子上にイソブチル基、エチルブチル基を導入した配位子と、クロムイオンの空気中で最も安定な酸化数であるクロム(III)を用いて世界で初めて窒素錯体の合成に成功している。 今回我々は、trenの末端N原子上にネオペンチル基を導入した配位子を新たに合成し、それを用いて窒素錯体の合成を行った。その結果、収率は大変低いものの、これまでと同様に二核クロム中心を架橋する形で窒素分子が配位することを、単結晶X線結晶構造解析の結果から明らかにした。また、すでに合成に成功している、置換基にエチルブチル基を導入した錯体について、SQUID測定を行い、二核錯体に対してS = 1であることを明らかにするとともに、予想通り高原子価窒素錯体であることを示す結果を得た。さらに、すでに合成に成功しているバナジウム-窒素錯体の酸化還元電位を調べるため、サイクリックボルタモグラムによる電気化学測定を行なった。 次に、当研究室で既に構造を明らかにしている二核バナジウム-窒素錯体を用いて、加熱条件下、ニトリド錯体の合成を試みた。しかし、今回行った条件下では、目的のニトリド錯体の生成を示す結果を得ることはできず、予想に反してバナジウム(II,III)の混合原子価二核窒素が生成していることを示唆する結果をESRスペクトル測定および単結晶X線結晶構造解析から得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2年目の目標は(1)4種類のクロム-窒素錯体の合成、(2)合成したバナジウム-、およびクロム-窒素錯体の酸化還元電位測定、(3)酸化数決定に向けての磁化率もしくはEXAFS測定、(4)バナジウム窒素錯体を用いたニトリド錯体の合成、(5)反応における課題および問題を明確にすることである。 これらの目標のうち、各目標に対する達成度について、(1):現在までに3種類の合成に成功した。現在4種類目の再結晶条件を検討中である。(2):バナジウム-窒素錯体の酸化還元電位は既に測定を終えており、クロム-窒素錯体においても錯体の必要量が集まり次第測定を行う予定である。(3):EXAFSの測定については、マシンタイムの問題と測定条件の問題から実現できていない。しかし、SQUID測定の結果から、クロム錯体ではCr(IV)の状態に近いということを明らかにできた。(4):バナジウム-窒素錯体からニトリド錯体を合成することについては、目的とするニトリド錯体を得ることはまだできていない。(5):バナジウム-ニトリド錯体の合成が成功していない。この結果について、架橋窒素分子におけるN-N三重結合が切断されるほど活性化できていないことが理由として考えられる。そこで、電子源となる還元剤の量を過剰にして反応させることや、還元剤の種類を金属ナトリウムや金属カリウムなどの強めの還元剤に変更するなどの対応が必要であると思われる。これについては、本年度の実験計画として行う。 また、当初予期していない結果として、混合原子価状態の二核バナジウム-窒素錯体を得ることに成功した。この結果は、二核金属中心をもつ架橋窒素錯体からアンモニアが生成する反応機構を推定する上で中間体の1つと考えられることから大変重要な結果であると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究3年目の本年度では、当初の計画の通り、バナジウム-ニトリド錯体の合成を行い、1種類以上のバナジウム-ニトリド錯体の合成を目標とする。また、クロム-ニトリド錯体の合成についても着手する。合成に成功したバナジウム-ニトリド錯体は、SQUIDやEXAFS測定などで磁気的性質や中心金属イオンの酸化数を明らかにする。さらに、一昨年度および昨年度に合成に成功した、tren配位子の末端N原子上にイソブチル基やネオペンチル基をもつクロム-窒素錯体の収率が大変低く、その他の測定などに必要な量を十分に確保することができていないため、これらの錯体の合成条件の最適化も並行して行う。 バナジウム-ニトリド錯体の合成について、昨年度までの研究結果から、加熱しながら電子源である還元剤(ナトリウムナフタレニド)を窒素錯体と反応させても、反応は全く進行しないことがわかっている。そこで、還元剤の量を錯体に対して大過剰に加えることや、これまで電子源として用いていたナトリウムナフタレニドよりも強い還元剤である金属ナトリウムや金属カリウムを用いることによってこの問題の克服を試みる。一方、目的とするニトリド錯体が熱的に不安定な場合も考えられるため、単離がどうしても困難な場合には、紫外可視吸収スペクトルや赤外吸収スペクトルなどの分光学測定を低温下で行うことによって、ニトリド錯体の合成を確認する。さらに、次年度に向けた先行研究として、窒素錯体を還元剤存在下、プロトン源であるトリフルオロメタンスルホン酸(HOTf)と反応させ、架橋配位した窒素分子がプロトン化されることによって、アンモニアやヒドラジンが生成するかどうかを検討する。
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