研究課題/領域番号 |
16K05737
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
岡 大地 東北大学, 理学研究科, 助教 (20756514)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ニオブ / バナジウム / 酸化物 / 酸窒化物 / エピタキシャル薄膜 / 電気伝導性 / 磁気抵抗 / 局在 |
研究実績の概要 |
低価数Nb化合物およびその類縁物質のエピタキシャル合成および物性評価に取り組んだ。 昨年度に引き続き、ペロブスカイト型SrNbO1-xNxエピタキシャル薄膜の合成と物性評価を行った。窒素量xを0から1の範囲で変化させた一連の薄膜の電気輸送特性と光学特性から非リジッドバンド的なバンド構造の変化を見出した。これはSrNbO3の電気輸送特性においても見られた電子相関効果によるものであると考えられる。この知見から、正規組成SrNbO2Nから窒素含有量を減らした中間組成において可視光吸収効率を損なわずに電気伝導率を向上できることが示唆され、光触媒能などの光エレクトロニクス応用に有用な材料設計指針が得られたと言える。 また、昨年度の研究で発見されたSrNbO2Nの低温での巨大磁気抵抗効果の詳細な解析を行った。得られた磁気抵抗曲線は局在電子系に見られる軌道収縮モデルでよく説明できた。磁気抵抗の三次元的な異方性を評価した結果、5 K以上の温度領域ではNbの4d軌道が隣接する酸素サイトに向けて軌道混成を反映した広がりを示したのに対し、2 Kの極低温域ではNb-Nb間の直接ホッピング伝導を示唆する[110]方向への軌道の広がりが観察された。これは従来の半導体材料と異なり、酸窒化物のようなイオン結晶の局在系では電気伝導軌道の遷移が起こり得ることを示している。 SrNbO3と同様のd1電子配置を持つV酸化物の合成と物性評価にも着手した。昨年度の研究で層状Srn+1VnO3n+1のc軸配向エピタキシャル薄膜の合成に成功したため、層状構造が電気輸送特性に与える影響を調べた。基板の種類を変えることでエピタキシャル歪みの異なる一連の試料の作成に成功し、層間距離の伸長により電気伝導面内で生じる二次元弱局在効果が増加することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画から一部、順序を変更した進行となっている。 Nb系酸窒化物エピタキシャル薄膜の合成と物性評価は計画よりも早く進行している。計画していた低温での電気輸送特性評価については磁気抵抗の詳細な数値解析にも成功し、窒素導入が電子の局在に大きな影響を持つことを示すことができた。また、当初の計画には含まれていなかったが、室温物性評価の結果に基づき、酸窒化物の光エレクトロニクス応用に重要なバンド構造を解明することができた。現在、それぞれの成果に関して論文投稿の準備を行っている。 高電気伝導性を示すペロブスカイト型Nb系酸化物の研究の一環として、BaNbO3エピタキシャル薄膜の合成と物性評価に着手した。パルスレーザー堆積法により、既に合成済みのSrNbO3と同様の条件で合成を行ったところ、(001)配向のエピタキシャル薄膜が得られた。電気輸送特性評価の結果、電子相関の影響を表すフェルミ液体挙動を観察できた。しかしながら、電気伝導率は予想に反してSrNbO3よりも小さい値であった。原因として、BaNbO3の格子定数が大きく、適した基板材料がないため、構造欠陥の多い薄膜となってしまったことが考えられ、対策が必要な状況である。 層状構造を持つSrn+1VnO3n+1エピタキシャル薄膜の合成においては、昨年度、合成に成功したSr2VO4に加えて層数の異なるSr3V2O7の合成にも成功した。いずれも層状構造を反映した二次元的な電子伝導を示し、電気伝導面内における局在現象と電子相関効果との関連について系統的なデータが得られた。V系酸化物の超薄膜における絶縁体化現象について議論がさかんに行われてきたが、本研究で得られた結果は既報における矛盾点を解消する解釈を与えるものである。現在、論文投稿の準備を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
酸窒化物SrNbO1-xNxエピタキシャル薄膜については、絶縁体化の起源がモットギャップの形成によるものか、アンダーソン局在によるものかに興味が持たれる。アンダーソン局在は1950年に理論が提唱されて以来、盛んに研究されてきたが、結晶中のランダムネスが絶縁体化をもたらす純粋なアンダーソン局在系が発見されたのは2011年になってからである。酸窒化物系におけるアニオンのディスオーダーによる局在現象がアンダーソン理論で説明できるかどうかを検討する。 酸化物BaNbO3エピタキシャル薄膜は合成に成功したものの格子整合する適切な基板材料がないことが現状の課題となっている。解決策としてバッファー層の導入を検討している。ペロブスカイト型が最安定であるような絶縁性酸化物の内、格子定数の近い材料を基板とBaNbO3層の間に挿入することで格子不整合を緩和し、高品質化を図る。また、亜臨界水溶液中でのトポタクティック還元反応によるより低価数状態の形成にも取り組む。既報ではBaNbO3粉末試料を還元状態にすることで超伝導性の発現が報告されているが、結晶構造が破壊されており、信頼性の低いデータとなっている。本研究ではエピタキシャル安定化により構造を保ったまま還元を行うことで還元試料の正確な物性評価を行う。 層状ペロブスカイトSr2VO4およびSr3V2O7のような強相関電子系における二次元伝導については統一的理解が未だなされていないため、これらの物質をモデルケースとして、得られた試料についての詳細な物性測定を進める。特に磁場を印加した際の磁気抵抗挙動の異方性に注目し、従来の2次元材料と比較する。また、計画時に提案したSr2NbO4に近い物質として、VをNbで一部置換した組成の薄膜合成に取り組み、物性の変化を調べる。
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