研究課題/領域番号 |
16K05738
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
谷口 耕治 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (30400427)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 磁性 / MOF / フィリング制御 / 固体電気化学 |
研究実績の概要 |
本年度は、中性のRu二核錯体集積体以外の系においても、酸化還元を伴うイオン輸送を介した磁性制御(磁気イオン制御)が可能か、検証を行った。 前年度に、ドナー(D)分子の水車型Ru二核錯体分子([Ru2])と、アクセプター(A)分子のTCNQ誘導体より構成される、有機金属骨格体(D/A-MOF)のうち、D-A間で電荷移動が起こらない中性の系に対し、リチウムイオン電池(LIB)によるイオン挿入を介した電子ドーピングを行い、常磁性状態からフェリ磁性秩序の誘起に成功した。これは、架橋分子のTCNQ誘導体への選択的な電子ドーピングにより、ラジカルスピンが発生した結果、[Ru2II,II]との間に運動交換相互作用が生じた為と考えられる。今年度は、TCNQ誘導体以外を用いた系でも、架橋分子上にラジカルスピンを発生させるというアプローチで、同様に磁気秩序を誘起出来るかを調べた。具体的には、二価のクロラニル酸イオン(Cl2An2-)を架橋分子とした遷移金属錯体集積体を候補物質として選択した。Cl2An2-は一電子還元された際に、ラジカルスピン状態(Cl2An3-)をとることが知られている。今回、クロラニル酸イオンに対して選択的に電子フィリング制御を行う為、還元されにくいMn2+とCr3+と組み合わせて得られる遷移金属錯体集積体に対し、磁気イオン制御を試みた。錯体集積体をLIBシステムの電極として組み込み、充放電操作による酸化・還元制御を行いながら、磁化変化を調べた。その結果、放電を行った際、放電前は約10 Kであった磁気転移温度が、放電後には33-36 Kまで上昇するのを観測した。これは、放電操作に伴う電子ドーピングにより、Cl2An2-がラジカル化し、磁気秩序相が安定化されたことを示唆している。さらにLIBの充放電を行ったところ、可逆的に磁気転移温度をスイッチング出来ることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度の当初の研究計画では、①Liイオン電池の充放電を行いながら磁化の測定が出来る、in-situセルを用いた磁気秩序スイッチングの実現.②イオン挿入の手法による新しい分子磁性体の開拓. という二点を目標としていた。このうち①に関しては、初年度に既にin-situセルの開発と、これを用いた充放電に伴う磁気モーメントのON-OFF制御に成功しており、目標を達成している。また、②に関しては、本研究がターゲットとしていた中性二核錯体集積体に留まらず、TCNQ誘導体を用いない、全く異なるイオン性の遷移金属錯体集積体でも、ラジカルスピンの生成・消滅というコンセプトで、同様に磁気イオン制御が可能であることを見出しており、当初の予定を上回るペースで順調に研究が進行している。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定していた、中性Ru二核錯体に対するLiイオン挿入制御を介した磁性制御(磁気イオン制御)に関しては、想定以上に研究が進み、初年度でin-situ条件下でのON-OFF制御まで達成し、また、これとは全く異なる系でも、ラジカルスピンの生成・消滅という同様のコンセプトによる磁気イオン制御が有効であるということを新たに見出すなど、計画以上に成果が得られている。そこで今後は、応用的な観点から、より高温(理想的には室温)で磁気スイッチングが可能な系の開拓にも目を向けて研究を推進する。現在既に研究が進行中であるが、ラジカルスピンとの強い交換相互作用が知られている遷移金属を用いた錯体集積体や層状無機化合物の系の磁気イオン制御に関しての研究を進める。
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