本研究では、電気化学的な手法により、磁気秩序を持たない中性錯体分子結晶と磁気秩序を持つイオン性分子結晶を切り替え、磁気秩序のON-OFF制御を行うことを目的とする。具体的には、酸化還元活性な分子から構成される中性錯体分子結晶に対し、リチウムイオン電池(LIB)の技術を応用によるイオンのインターカレーション介した電子フィリング制御を行い、無秩序な磁気基底状態から人工的な磁気秩序格子を構築することに取り組んだ。 リチウムイオン電池の放電操作によりRu二核錯体とTCNQ誘導体から成る中性錯体分子結晶に電子ドーピングを行い、常磁性分子を架橋している分子上に、選択的にラジカルスピンを発生させ、常磁性相からフェリ磁性相を誘起することに成功した。また独自に開発した、MPMS中で充放電&磁化測定が可能なin-situリチウムイオン電池システムを用いて、常磁性相とフェリ磁性相間を可逆的にON-OFF制御することにも成功した。またRu二核錯体-TCNQ誘導体集積体においては、ドーピングされた電子を直接ラジカルスピンにするだけでなく、スピン二量化の抑制のような間接的な電子状態の変調によっても、磁気秩序を誘起出来ることを明らかにした。 Ru二核錯体-TCNQ誘導体集積体以外にも、Feクロラニル酸錯体や層状無機化合物を対象とした磁気イオン制御を試み、高温での磁気秩序の誘起にも成功した。特に、後者では、室温以上の温度での磁気秩序誘起が実現されており、今後、このような酸化・還元反応を伴うイオン輸送を介した磁性制御(Magneto-ionic control)は、新たなスピン-イオン協奏デバイスの創出等、応用分野への発展が期待される。
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