研究課題/領域番号 |
16K05739
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
石塚 智也 筑波大学, 数理物質系, 講師 (20435522)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ポルフィリン / 縮環 / プロトン化 / 酸化還元 / 非線型光学効果 |
研究実績の概要 |
本年度は、外周部に五員環縮環構造を4つ持つポルフィリン誘導体(QFP)のフリーベース体を合成し、結晶構造解析および1H NMR測定により、キャラクタリゼーションを行った。また、このフリーベース体に対してCH2Cl2中、トリフルオロ酢酸(TFA)を滴下して吸収スペクトル変化を観測し、内部イミン窒素へのプロトン化挙動を観測した。その結果、逐次的なプロトン化挙動を示した。この際、298 KにおけるQFPのモノプロトン化の平衡定数は、(1.3 ± 0.1) × 10^5 M^-1と求められた。一方、QFPのジプロトン化には、大過剰のTFAが必要であり、その平衡定数は7.3 ± 0.3 M^-1と求められた。このジプロトン化が困難な理由は、剛直な五員環縮環構造の形成により、ジプロトン化体が不安定化するためだと考えられる。またCH2Cl2中におけるQFPの各プロトン化状態の電気化学測定を行った。その結果、プロトン化が進むに従い、還元電位が高電位側にシフトし、モノプロトン化体は-0.46 V vs SCEに可逆な還元波を示した。この還元電位に基づき、定電位電解を行って得られたQFPのモノプロトン化体のESRスペクトルを観測した。その結果、モノプロトン化により構造的な対称性が低下したことを反映する、超微細分裂が観測された。 また本年度は、QFPの対角に位置する2つのメソ位アリール基に、それぞれ電子供与性基と電子吸引性基を対角に導入したプッシュ-プル型誘導体を合成した。また、得られたプッシュ-プル型誘導体の非線型光学特性をハイパーレーリー散乱により求め、同じ電子供与性基と電子吸引性基を持つ、縮環していないポルフィリン誘導体よりも240倍も大きな値が得られることを明らかにした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、容易に合成が可能な出発原料から、“縮環”という方法によって、比較的少ないステップ数で、顕著な光学特性・電子機能性を示す分子を得ることを目指している。 本年度は、縮環がもたらす構造の剛直性を利用して、縮環ポルフィリンの内部イミン窒素の塩基性や、プロトン化体の安定性を制御し、ポルフィリンでは珍しいモノプロトン化体の生成に成功した。さらに、このプロトン化により誘起される酸化還元電位の高電位シフトや、一電子還元体のESRスペクトルから対称性の低い電子構造を明らかにした。 本研究では、外周部に複数の縮環構造を有する拡張π共役系分子と、電子ドナー性を有するπ共役系分子間の配置を精密に制御し、これによって構築された超分子集積体を用いて、色素増感太陽電池特性などの発現を目指している。したがって、プロトン化によって電子受容性が増すことを明らかにした本年度の成果を利用して、今後、π-π相互作用や静電相互作用により、電子ドナー分子との複合体を形成した際に、光誘起電子移動を高効率に進行させられると考えられる。 また本年度、プッシュ-プル型の分子設計で、大きな非線型光学特性を示すことに成功した。したがって今後、さらに分子設計を工夫することにより、より大きな非線型光学効果を示す分子を合成する足がかりが得られた。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度までに作成した縮環ポルフィリン誘導体を一次元状に集積化し、これを電子やホール、または励起エネルギーの伝導経路として利用することを計画している。π系を利用した分子ワイヤに関する研究は既に数多く行われているが、本研究でも用いる縮環ポルフィリンでは、これまでに用いられてきたπ共役系分子よりも、はるかに長波長の吸収を有することから、より低いエネルギーの光で動作する光導電性、光スイッチングなどの機能を発現することが可能である。 平面のπ系では、対称なために伝導経路に方向性を持たせることは困難である。しかし、縮環ポルフィリン誘導体は、お椀型の歪みを呈することが明らかになっており、これに基づいて、分子の凹凸を認識させて、自発的に異方性を有する一次元鎖を形成することを計画している。これによって電子アクセプターとの複合超分子を作成し、光誘起電子移動系の構築を目指す。例えば、電極基板上にフラーレンを一層並べ、そこから層状にお椀型ポルフィリンを積層していくことにより、異方性を有する超分子構造を構築する。得られた複合集積体に関して、高効率な光導電性や、色素増感太陽電池などのデバイスへとつながるような電子移動特性、光電流発生などの光電子機能性を開拓する計画である。
|