研究課題
本年度は、四重縮環ポルフィリン(QFP)の縮環していないピロールの4つのβ位を全てブロモ化したテトラブロモ体 (1)の合成を行った。得られたテトラブロモ体1を蒸気拡散法により再結晶することで得た単結晶を用いて、X線構造解析を行ったところ、1の縮環していない2つのピロールの一方が、もう一分子の亜鉛に配位し二量体2を形成していた。この二量体2の構造を横から見ると、一層目のQFP分子の亜鉛には、一層目のQFP配位子のピロール窒素3つと、溶媒由来のエタノール分子の酸素原子が配位していた。また二層目の分子の亜鉛には、一層目のQFP配位子の残ったピロール窒素と、二層目のQFP配位子の3つのピロール窒素が配位していた。ここでは、ポルリフィリン金属錯体としては、非常に珍しい中心金属に対してeta-3配位している構造が観測された。一方、二量体2の結晶を、重DMSO中に溶かして、1H NMRスペクトルを測定すると、非等価なプロトンに由来するシグナルが4つだけ観測され、対称性の高い構造が示唆されたことから、溶液中において、二量体2は、単量体である1となっていることが示唆された。次にQFPの内部NHが示す互変異性挙動を、β位にメシチル基を一つ導入したフリーベース体のQFP(3)を用いて検討した。温度可変1H NMR測定を行った結果、3の内部NHの互変異性を明確に観測することができ、3のNH互変異性は、縮環構造によるポルフィリン環の菱形の歪みのために、縮環構造を持たないテトラフェニルポルフィリンのNH互変異性に比べて高い活性化障壁を示すことが明らかとなった。さらに活性化エントロピーが正に大きな値を持つことがわかり、これは基底状態で3が示すπ-π相互作用に基づく二量体構造が、NH互変異性の遷移状態において解離し、単量化したことに基づくと推定された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、容易に合成が可能な出発原料から、“縮環”という方法によって、比較的少ないステップ数で、顕著な光学特性・電子機能性を示す分子を得ることを目指している。本年度は、縮環がもたらす構造的な特徴と置換基の導入により、ポルフィリン金属錯体としては珍しい、ピロール窒素原子の中心金属からの解離と、それに基づく二量化現象を観測した。また縮環構造の形成がポルフィリンの内部NHの移動に伴うNH互変異性に与える影響を調べるために、四重縮環ポルフィリンの1カ所に置換基を導入して、構造の対称性を下げ、1H NMR測定により、NH互変異性の反応速度を求めた。今後は、ここまで明らかにした知見を元に縮環ポルフィリンを光電子機能性材料へ応用できるように研究を展開して行く予定である。
前年度までに作成した縮環ポルフィリン誘導体を用いて、非線形光学応答をハイパーレイリー散乱などの手法を用いて検証する。また拡張したπ共役系に基づく特異な酸化還元挙動を探索するために、外周部に2つのヒドロキシ基を導入した縮環ポルフィリン誘導体を合成し、この分子を酸化した際に拡張キノンとしての性質を検討する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち査読あり 6件) 学会発表 (23件) (うち国際学会 4件、 招待講演 2件)
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