研究課題/領域番号 |
16K05740
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
大庭 亨 宇都宮大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30291793)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 蛍光プローブ / 膜電位 / 神経細胞 / 超分子 / ケミカルバイオロジー / 光異性化 / 光誘起電子移動 / 励起エネルギー移動 |
研究実績の概要 |
本研究では,精神疾患や認知症の克服に資するため、神経回路研究用の高感度な低分子プローブを開発することが目的である。すなわち、①高感度な膜電位感受性蛍光色素(VSD)としては、1 mVあたり1%以上の蛍光強度変化を与えるものを、②神経細胞の光操作のための低分子プローブとしては、神経細胞特異的な分子プローブや、細胞膜のイオン透過性などを変える超分子を開発することを目指している。 (1) 種々の新規なフェノキサジン類を合成した。リポソームを用いたモデル系で膜電位変化に対する応答を調べたところ、三重結合によってフェノキサジンと電子供与性基(ジアルキルアミノ基)を連結した化合物で、実用レベルの電位感受性を達成することができた。(2) クラウンエーテルを連結した新規なピリジルピロール類も合成した。側鎖にニトロフェニル基をもつものは5 mMのカリウムイオンに対して蛍光強度を倍増させ、アミノフェニル基をもつものでは逆に蛍光強度を37%減少させた。神経細胞の膜電位はカリウムイオンの放出によって大きく変化することから、これらの化合物は膜電位を間接的に検出できると期待される。(3) 顕著な溶媒効果を示すキノリルピロール類を合成することもできた。ヘキサン中では青い蛍光を発するが、溶媒の極性を上げると赤色方向に徐々にシフトし、メタノールでは赤い蛍光を与えた。膜電位の変化に伴う局所的環境変化の検出に利用していきたい。(4) オリゴデンドロサイトに特異的に集積するプローブを開発する目的で、pleurocybellaziridineの新規な類縁体を合成することができた。 以上の成果は日本化学会第97春季年会で発表した。このように28年度は順調に研究を進めることができ、本研究の技術的基盤をつくることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規なフェノキサジン類を合成し、それによって実用的な膜電位感受性を達成することができた。クラウンエーテル部を持つ新規なピリジルピロール類を合成し、カリウムイオンを選択的に認識できることを確認できた。pleurocybellaziridineの新規な類縁体も合成することができた。28年度は順調に研究を進めることができ、今後の技術的基盤をつくることができた。
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今後の研究の推進方策 |
29年度は上記の化合物の改良を行っていきたい。色素の感度を上げるために、励起状態プロトン移動(ESIPT)を利用して膜電位をセンシングする仕組みを強化する。同時に、より蛍光が強く、褪色しにくい色素を引き続き探索していく。また、細胞膜(近傍)に局在させて動作させるために、疎水基の導入を工夫する。分子ワイヤーを疎水基として使うほか、スフィンゴ脂質や神経毒ペプチド、人工ヘリックスなどとの複合化も検討していく予定である。
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