研究実績の概要 |
分子集積構造に依存して固体発光特性が変化する「集積構造依存型発光 (PDL)」は、分子の化学構造を変えずに発光特性が制御できる系として注目されるが、集積構造と発光特性との関連性の理解はいまだ道半ばである。本課題は、PDLを示す『同一の』複素環ユニットを有する化合物群を作成し、光物性測定と高精度の計算化学手法を通じてこれを明らかにすることを目的とした。本年度は七員環型ねじれ分子内水素結合を形成するイミダゾ[1,2-a]ピリジン(IP)の各種アリール体について、芳香環どうしの立体障害の大きさと(i)ねじれ角および(ii)水素結合形式(分子内/分子間)が関連付けられることを示した。さらにこれらが示す分子内プロトン移動型(ESIPT)発光について、PDLを示す誘導体の合成にも成功した。 研究期間全体を通して、以下の成果を得た。 1. 単純化されたグラフ理論に基づくトポロジー共鳴エネルギー (TRE)法は、励起状態計算に要する時間が大幅に短縮でき、分子設計の構造スクリーニングに利用できる可能性を示した。 2. 2-(2'-ヒドロキシフェニル) IPの固体ESIPT発光について、(i) 置換位置の異なる一連のモノクロロ体がPDLを示すことを見出し、計算化学による励起状態の評価をおこなった。(ii) 三色PDLを示す6-シアノ体の各結晶の時間分解過渡吸収測定により、プロトン移動や発光等各プロセスの時定数を決定した。発光種がヘテロエキシマーであることを示し、PDLの機構解析に成功した。 4. 報告例の少なかった七員環型ESIPT発光を示す化合物群の設計/合成に成功し、PDLを示す誘導体も見出した。
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