「研究の目的」として設定した、電子ドナー(D)・アクセプター(A)部位が直接縮環した高分極性のπ共役系有機半導体分子群の創製に成功した。 具体的には、申請者らが独自に開発したo-ベンゾキノン縮環型テトラチアフルバレン誘導体に対して、各種のアルキルチオ基を導入した一連の分子群を合成・単離し、その構造-物性相関を分子レベルで明らかにした。まず、これらの新規類縁体は、母体に比べて、短段階・高収率、そして大スケールで合成が可能であり、さらに、有機溶媒に対する溶解性にも優れていることを見いだした。また、導入したアルキルチオ基の鎖長にかかわらず、溶液(単分子)状態において、良好な両性酸化還元特性、小さなHOMO-LUMOギャップ、そして大きな分子内分極を有していることが分かった。さらに、これらの化合物は結晶性にも優れており、単結晶でのX線構造解析により、分子構造、分子配列・分子間相互作用ならびにこれらに対する置換基効果を詳細に明らかにすることができた。いずれの類縁体もπ-π相互作用に基づくカラム構造を形成しており、興味深いことに、アルキル鎖を伸長することでカラム間の相互作用が増加し、電子構造の次元性が向上することが分かった。これらの結果は、アルキルチオ基置換体が有機半導体分子の新しい候補物質であることを示しており、本年度は主に、これらの物質の単結晶を用いたトランジスタ作成を行った。残念ながら、有意なトランジスタ特性の観測には至らず、デバイス化に対するさらなる検討が今後必要である。その一方で、別途開発した金属ジチオレン錯体を用いた単結晶トランジスタにおいて、電界効果を観測することに成功した。
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