本研究では、「どのような形・骨格の分子が双連続キュービック液晶相(Cub_bi相)を与えるか」という問いに対し、系統的なライブラリー構築を推し進め、分子デザイン指針の確立を目指した。以下に主な成果をまとめる。 (1)まず、分子コアの拡大では、中心対称性を保持しつつ、二つの芳香環部位をベンゼン環からフェニルエチニルベンゼンへと拡張した5つの同族体系列と、分子の中心対称性を崩し、片側の芳香環のみを拡大した4つの同族体系列の開発を行い、最終的に9つの化合物系列において、発現相を決定する第一の因子は、分子コアの分子全体に占める重量分率f_coreであることを実証した。分子コアの非対称拡張では、片側の芳香環の大きさのみを2倍程度に拡大しても、両側を2倍程度拡大したときと同じ程度のCub_bi相の発現温度領域をより低温側で実現できるという重要知見を得た。 (2)次に、シロキサン鎖の鎖末端への付与は、分子コアサイズの拡大とは対称的に、透明点Tcの上昇を抑え、液晶形成温度Tmを下げるのに有効であった。系統的に合成し調査した結果、シロキサン鎖付与においても、シロキサン鎖、アルキルスペーサー、そして分子コアの3つの部分のバランスが重要であること、さらには、シロキサン鎖付与と分子コアの非対称化を組み合わせることで、ほとんど永久的といえる程までに永続する準安定Cub_bi液晶相が形成されることなどの知見を得た。 (3)機能化の観点では、紫外光に対する応答性に優れ、かつ安定性にも極めて優れた系の構築に成功したが、分子コア部分のさらなる骨格変換による強誘電性などの他の有用物性の探索、およびキラルなCub相発現の制御は道半ばである。 以上、「低分子Cub_bi相工学」へは課題を残したが、分子デザイン指針を得たという意味では、その技術基盤を与える「低分子Cub_bi相化学」の構築にはある程度成功したといえる。
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