光合成初期過程の卓越した機能解明を目指したポルフィリン金属錯体の超分子構造体の精密構築を行った。ポルフィリン亜鉛錯体と、この軸配位子であるピリジル基とを交互配列した自己相補的な配位結合形成により二重鎖構造を構築することを利用し、本研究ではこれを構築ユニットとした環状構造の構築に取り組んだ。剛直な二重鎖構造を構築ユニットとして一次元の超分子ポリマーに拡張すると、溶液中で数マイクロメートルに及ぶ直線状の構造を構築でき、溶液中におけつ分子の形状を制御できることを見出した。またポルフィリンとこれに対する結合サイトを連結したとき、正の共同性を担保できる自己相補的な相互作用を期待できることに着目し、自己相補的なポルフィリン亜鉛錯体とBODIPYとの間でのカチオン-双極子型の相互作用により、二重鎖形成できることを見出した。一方、二重鎖形成に基づく環状構造への展開を行い合成を完了したものの、現段階において構造の妥当な評価結果を得るに至っていない。また本研究期間において、光合成の光捕集アンテナ錯体における励起子の振る舞い関する研究進展に照らして、本モデル研究で合成した構造の妥当性に厳密な意味でやや疑義が生じつつある状況となりつつあるのが現状である。ところで、これらの検討過程において合成したポルフィリンが非晶質となり、これが近赤外波長域で発光することを見出した。この際の発光挙動が、共鳴ラマン散乱との比較から分子の振動モード(フォノン)とのカップリングを示唆しており、同じく光合成の光捕集アンテナであるクロロゾームと構造的に類似のJ会合体を構築したとき、同様の励起子とフォノンとのカップリングを示唆する結果を得た。このように、当初の研究目標の結果がまだ得られていないものの、異なる構造において近赤外発光という非常に稀有な現象を見出し、ここにおいて励起子とフォノンとの興味深い相関を示唆する結果を得た。
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