研究課題/領域番号 |
16K05751
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
隅本 倫徳 山口大学, 創成科学研究科, 准教授 (40414007)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 複合物性 / 混晶 |
研究実績の概要 |
本研究は,申請者らが確立した,結晶構造と同じ分子配列を示す金属フタロシアニン(MPc)二量体および三量体から結晶構造の物性を評価する計算化学的手法を用いて,CuPcおよびLiPcの未知なる混晶構造の分子配列,分子間π-d 電子相互作用の強さ,および新規複合物性発現の可能性を評価することを目的としている。平成28年度は,1.LiPc結晶構造を参考にしてCuPcとLiPcからなる混晶二量体のモデル構造の作成および構造最適化計算,および 2.分子間相互作用の有無を含めたそれらの物性評価,を行った。 LiPcのX-formおよびβ-form結晶系をモデルとした二量体 (X- およびβ-type) の一分子をCuPcに置き換えたモデル二量体 (X-LiCuおよびβ-LiCu) について、構造最適化を行った。X-LiCu二量体において、Pc環の二面間距離は3.191 Åと計算され、過去に報告したLiPc X-type dimerのそれ(3.095 Å)より約0.1 Åほど長いが、分子間相互作用がみられる距離であると考えられる。また、β-LiCu二量体において、Pc環二面間距離は4.740 Å、傾斜角は43.9度と計算された。これは過去に報告したLiPcのβ-type dimerとほぼ同様の構造となった。得られたβ-LiCu二量体構造を用いて、励起エネルギー計算を行った。β-LiCu二量体では、LiPc二量体よりも吸収スペクトルの複雑化が見られた。また、LiPcでは見られない吸収帯が、0.66 eV付近に計算された。このようにLiPc-CuPc 二量体の吸収スペクトルは、LiPc二量体のものとは異なる特性を持つことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CuPcとLiPcを用いて,分子間πーd電子相互作用を持つ混晶構造を理論計算によって設計および物性評価し,さらに設計した混晶構造を作製する実験的手法,分子配列の制御とその評価方法を確立させ新規磁性材料を開発する,という研究目的を達成するために,1.CuPc結晶構造のモデル二量体の計算,2.CuPcとLiPcからなる混晶モデルの計算,3.混晶モデル構造の物性評価,4.CuPcとLiPcの混晶蒸着膜の作製と物性評価,の四つの課題を挙げ,それに対応するように研究計画を立てた。当初の計画と順序は異なるが,課題2と3のほとんどは終了している。現在は、LiPcの結晶構造を参考にモデル二量体の設計を行っているが,次年度では,CuPcの結晶構造を計算化学的手法により明らかにし,それらを参考にしたモデル二量体の設計を試みる。以上の結果から,本研究課題はおおむね順調に進行していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は現在のところ,研究計画の前後はあるもののおおむね順調に進行しているが,今後の課題は,混晶モデル二量体の分子設計である。現在得られているLiPc結晶構造をモデルとしたCuPcとLiPcのモデル二量体は計算結果からもおそらく実現可能な混晶であるが,すべてが三重項状態で得られており,不対電子間の相互作用は弱いと考えられる。つまり,強い分子間π-d電子相互作用は得られていない。これを改善するために,CuPc結晶構造を解析し,不対電子間の相互作用が強い,つまり一重項でも安定に存在するモデルを探索することが重要である。また,CuPcの不対電子は,HOMOより安定な軌道になる可能性もあるため,状況に応じて,FePcなどのHOMOよりエネルギーが高い不対電子を持つ分子でのモデル二量体を検討することで,現在の問題点を改善できると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コンピュータ消耗品として予算を計上していたが,本年度は大きな故障や消耗品の劣化が少なかったこと,また,次年度に現在使用している量子化学計算プログラムの最新版の購入を考えており,それに充てたかったため,支出を抑えた。
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次年度使用額の使用計画 |
GaussView6の購入: 431000円(未使用額+平成29年度消耗品額から50000円)
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