研究課題/領域番号 |
16K05752
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
松田 真生 熊本大学, 大学院先端科学研究部(理), 教授 (80376649)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 有機モット絶縁体 / 光照射 / フタロシアニン / 相転移 |
研究実績の概要 |
バンドが半分満たされた物質は金属相の出現が期待されるが、電子間のクーロン反発が大きい強相関電子系ではモット絶縁体と呼ばれる状態になる。モット絶縁体は通常のバンド絶縁体とは異なる電子状態であり電子材料として魅力的な系である。本研究では有機モット絶縁体に注目し、有機オプトエレクトロニクスと強相関電子系の新展開を開拓すべく、有機モット絶縁体の光による電子相制御を目指している。 多くの有機モット絶縁体は対成分を有する、すなわち複数成分から構成されているが、本研究では単一成分からなる有機モット絶縁体であるフタロシアニン系のモット絶縁体に注目している。特に、蒸着による薄膜作製と電気分解による単結晶作製の双方が可能な系は、薄膜系と結晶系での諸物性の比較が可能であり研究の遂行に都合がいい。その点で、二年目の29年度は前年度に続き薄膜系での光応答現象を探索しつつ、微小ギャップ電極間に結晶成長させた新しい手法にも挑戦した。 薄膜系では、室温、低温、大気下、真空中のいずれにおいても光照射している際の電流値が暗電流に比して5倍程度上昇する現象が再現よく確認された一方、単結晶系ではいずれの条件でも電流上昇が明確には観測されていない。単結晶を用いた素子作製、現状では多結晶化している点に課題が残っている。 また、本研究と関連してフタロシアニン系モット絶縁体の新しい電子機能を発見しているが、同様の機能性を有する新規結晶の作製も分子設計の視点から達成しつつ、フタロシアニン系伝導体の物性理解も進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度の熊本地震による研究の遅れはおおよそ取り戻せたと考えている。電子相の転移には至っていないが、光照射中の電流値が暗電流に比して上昇する現象は数秒~数十秒でも維持できる。これまでの有機モット絶縁体では観測されていない現象で、本研究が目指す分子間電子移動を起源とした光電流誘起が達成されている可能性が期待されるため「おおむね順調に進展している」と自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
微小結晶系について微小単結晶一つにて測定できる環境・条件を探索する。最終的にはサブミリメートル程度のバルク結晶で本研究目標が達成されることが理想ではあるが、現状を考えれば微小結晶にて実験を実施することが現実的である。 また、薄膜系も含めて、現在用いているものとは異なるアクセプターを用いることも目標達成には有効かも知れない。広く物質群の再検討も行い、より劇的な電流変調を示す系の探索に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)「平成28年熊本地震」の影響で初年度の研究進捗に遅れが生じ28年度から29年度への未使用額が多く発生した。29年度には研究の遅れを取り戻すべく精力的に研究に取り組み効率的な予算執行ができたが、依然未使用額が生じている。
(使用計画)これまでにクライオスタットの改造に取り組んでいるが、場合によっては他予算との合算により窓付クライオスタットの購入も検討する。研究期間3年間にて無駄のない予算執行を行いつつ研究目標の達成を成し遂げたい。
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