研究課題/領域番号 |
16K05758
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
高井 和之 法政大学, 生命科学部, 教授 (80334514)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | グラフェン / 官能基 / 副格子 / 局在磁性状態 |
研究実績の概要 |
今年度はグラフェンそのものの反応性の評価のために必要な液相剥離法によるグラフェンの大量合成を原料グラファイトの粒径を変えながら行い,収率をあげる最適条件を見出した. また,グラフェンに反応活性部位として酸素含有官能基を導入した誘導体である酸化グラフェンの合成と化学構造の評価および磁性の調査を行った.酸化グラフェンの合成は過マンガン酸カリウムを用いるHummers法により得た酸化グラフェンHummersGOと塩素酸カリウムを用いたBrodie法により得たBrodeiGOの2種類について行った.合成したHummersGOとBrodieGOの化学構造をXPS,FTIR,Raman分光,XRDで評価したところHummersGOでは水酸基が主に導入されるのに対し,BrodieGOではエポキシ基が主に導入されることがわかった.これらの差異は固相における酸化グラフェンの積層周期の違いとしても現れており,複合的な観点から確かなものであることがわかった. また,HummersGOとBrodieGOの可視紫外吸収の測定を行ったところ,非結合状態とπ状態との間の遷移に対応する波長域のスペクトル構造に明瞭な際が見られることがわかった. さらに,静磁化率の測定を行ったところHummersGOはBrodieGOの10倍もの局在スピン濃度を有することを見出した.これはBrodieGOでは主にエポキシ基が隣接炭素原子を架橋する形で導入され,グラフェンの蜂の巣格子における副格子の対称性を保つのに対し,HummersGOでは水酸基がランダムに導入され,副格子の対称性が破られることにより,磁性を持つ局在状態が生じるためであると理解される. 以上,グラフェンの副格子の対称性を化学修飾による官能基導入により変調することにより,グラフェンに対して選択的に局在磁性状態を付与することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
グラフェン誘導体の反応性を評価するための物質合成,構造評価の段階で,合成法の選択によりこれまで困難とされていた酸化グラフェンの化学構造の制御が可能であることを見出し,化学構造の違いが酸化グラフェンの磁性の違いとして現れることをグラフェンの蜂の巣格子が持つトポロジーの観点で理解できたため.
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今後の研究の推進方策 |
液相剥離法によるグラフェンの大量合成をさまざまな有機溶媒,無機溶媒,イオン液体を用いて行い,合成後の構造,物性評価や適用する反応に応じて適切な合成法を確立する.また酸化グラフェンの触媒反応性の評価を芳香族アミンの酸化カップリングや水中反応に適用して行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験計画との兼ね合いで支出を予定していた電子ビームリソグラフィー装置の修理調整を延期したため.
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次年度使用額の使用計画 |
不調である電子ビームリソグラフィー装置の修理調整を行う.
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