研究課題/領域番号 |
16K05761
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
林田 修 福岡大学, 理学部, 教授 (20231532)
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研究分担者 |
草野 修平 福岡大学, 理学部, 助教 (80759291)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | ホストゲスト化学 / 分子認識 / ゲスト放出 / 薬物送達 / ジスルフィド |
研究実績の概要 |
本研究では、薬物運搬体としての機能を有する多環状ホストを開発することを目的にしている。例えば、“薬剤(ゲスト)を放出する”と同時に“光り出す”などの機能をもった多環状ホストの開発を目指している。一般に、天然レセプターは生体膜上で寄り集まることでリガンドに対する親和性が高くなるクラスター効果が知られている。我々は、このクラスター効果の概念を取り入れることによってシクロファンを集積化した多環状ホストを合成し、これを用いてゲストに対する捕捉力を飛躍的に向上させる基盤技術を開発している。一方、ジスルフィド結合は動的共有結合として知られ、酸化還元による外部刺激によってその結合の解離・付加を可逆的に制御することができる。これまでに、ジスルフィド結合で連結したシクロファン2量体を基体として、ローダミン基を2つ導入したホストを合成した。このホストはローダミン基による自己消光のためにホスト単独ではローダミンBと比べて弱い蛍光を示し、さらにホストの水溶液にジチオトレイトールを添加すると蛍光強度が約3倍に増大することもわかっている。今年度は、このように蛍光強度が増大する原因がホストの解裂によるものであることを明らかにするために、MALDI-TOF MSによる検討を行った。その結果、このホストのジスルフィド結合が還元処理によって解裂することでローダミン基を一つだけ有するシクロファン単量体が生成し、これにより自己消光が解消することを明らかにした。また、これら還元刺激によりシクロファン2量体からシクロファン単量体の生成にともなって、捕捉したゲスト分子を徐放できることも実証した。さらに蛍光強度を増大させるために、消光基を導入したシクロファン多量体を分子設計し、合成を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジスルフィド結合で連結したシクロファン2量体は、外部刺激に応じてシクロファン単量体へ解裂させることができる。さらに、ローダミンなどの蛍光基を導入したシクロファン2量体は、単量体への解裂に応じてその蛍光強度が増大することが期待できる。つまり、クラスター効果の解消に伴った包接ゲストの放出を蛍光強度の変化として検出することが可能になると考えた。このような考えに基づいて開発した2つのローダミン基を導入した蛍光性シクロファン2量体(ホスト)は、還元刺激に応答して蛍光強度が約3倍に増大することがわかっている。今年度は、このように蛍光強度が増大する原因がホストの解裂によるものであることを明らかにするために、MALDI-TOF MSによる検討を行った。その結果、このホストのジスルフィド結合が還元処理によって解裂することでローダミン基を一つだけ有するシクロファン単量体が生成し、これにより自己消光が解消することを明らかにした。すなわち、還元刺激によって蛍光強度が約3倍に増大する原因がホストの解裂によるものであること実験的に明らかにすることに成功した。また、これら還元刺激によりシクロファン2量体からシクロファン単量体の生成にともなって、捕捉したゲスト分子を徐放できることも実証した。これにより、本研究課題の主目的である“薬剤(ゲスト)を放出する”と同時に“光り出す”などの機能をもった多環状ホストを開発することに成功したものと考えている。ただし、蛍光強度の増大が3倍ほどと小さく、またゲストに対する捕捉力もまだ十分であるとは言い難いことから、消光基を導入したシクロファン多量体を引き続き合成すべきであると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
現在までに2つのローダミン基を導入した蛍光性シクロファン2量体(ホスト)は、還元刺激に応答して蛍光強度を約3倍に増大させることに成功している。これらの知見をもとに、次年度は消光基を導入したシクロファン多量体を新たに合成し、蛍光消光特性やゲスト放出機能について評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)平成29年度実支出額が所要額よりも約65万円少なかった。これは試薬などの消耗品費が少なかっためである。 (使用計画)未使用額の約65万円は平成30年度に繰り越す。
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