研究課題/領域番号 |
16K05765
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研究機関 | 秋田大学 |
研究代表者 |
清野 秀岳 秋田大学, 教育文化学部, 准教授 (50292751)
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研究期間 (年度) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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キーワード | 生物無機化学 / ラジカル酵素 / 金属-硫黄クラスター |
研究実績の概要 |
ラジカルSAM酵素は活性サイトの[4Fe-4S]クラスターからの一電子移動により、第三級スルホニウムのC-S結合を切断して有機ラジカル活性種を生成する。本研究では安定なキュバン型骨格構造をもつ[4Ru-4S]クラスターを活性サイトの高周期元素アナログとみなし、基質分子の配位能と酸化還元特性を検討した。基質と結合できるルテニウム中心を1つまたは2つ持つクラスターは、リンまたは窒素ドナーの二座配位子によって保持されたものをRu(II)2Ru(III)2の酸化状態で合成した。代表的な配位構造においては、2つのRu(II)はπ-アレーン配位子でキャップされているが、キレート二座配位子を持つ2つのRu(III)間には架橋ヨージド配位子があり、潜在的な基質配位サイトである。このタイプのクラスターは1,10-フェナントロリンを補助配位子にすると選択的に合成できるが、2,2'-ビピリジルを用いると副生物としてすべてのルテニウム中心にビピリジルがキレート配位したものが相当量得られた。副生したクラスターは2つの架橋ヨージド配位子を有し、すべてのルテニウムが形式3価の構造であると同定された。生成過程においてクラスターの二電子酸化を引き起こした電子受容体は明らかになっていないが、配位環境によってはRu(II)2Ru(III)2コアの還元能が高まることを示唆している。 [4Fe-4S]クラスターの鉄原子は、基質分子の配位中心となるものを除き、タンパクのシステイン残基が1つ結合した四面体型の幾何構造をとっている。一方でこれまでに合成できた[4Ru-4S]クラスターは、各ルテニウム中心に二電子ドナーが2または3個配位したものばかりである。ルテニウム上のドナー数を減らすため、嵩高い有機リンまたは硫黄配位子との反応を試みたが、これらによるクラスターの捕捉はできなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
有機分子変換のための金属-硫黄クラスター反応場を構築する上で、クラスターの酸化状態や補助配位子の最適条件を見いだすのに時間を要した。当初計画では低酸化状態のクラスターから基質分子への電子移動を狙っていたため、クラスターの還元を検討したが、常磁性種を含む混合物となり同定や利用には至らなかった。一方で本年度末には、扱っているクラスターが比較的容易に酸化されうることが判明したため、高酸化数側の酸化還元対を使って基質分子を還元する方針に転換したところである。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で得られた一連のRu4S4クラスターや他のキュバン型金属-硫黄クラスターを電子供与体として用いて、炭素ラジカルの発生とそれを利用した不活性結合変換を以下の通りに検討する。第一に、ラジカルSAM酵素との対応から、第三級スルホニウム化合物との反応性を系統的に調べる。スルホニウムについてはクラスターとの結合の必要性を確かめるため、分子内に金属上に配位するサイトを有するものとそうでないものを用い、クラスターについては基質分子の配位サイト数や酸化電位に注目する。第二に、クラスターによるカルボカチオンの一電子還元を検討する。生成した炭素ラジカルはradical trap剤や分光学的方法により確認するとともに、ラジカル種を中間体とする有機反応に適用する。ここでも、クラスターからの電子移動にカルボカチオン基質の配位が必要であるかを検討する。クラスターに配位することなく電子を受容できるカルボカチオンを見いだした場合は、ラジカルを用いて活性化したい基質を配位させたクラスターに作用させ、クラスター分子近傍での連続的な電子移動・ラジカル形成・ラジカル移動を試みる。また、クラスターとカルボカチオンとの反応では、クラスターコアの硫黄原子が求核的に付加する可能性もあるが、その場合には引き続いて生成したS-C結合を均一解離させる方法を探索する。以上のように、クラスターによる基質活性化に絞って実験を進めるとともに、本研究で新規に得られたクラスターについては電子状態に関する理論的な研究も追加して論文として発表する。 これまで通り、連携研究者の弘前大学・岡崎教授にはX線回折実験で、岩手大学・是永准教授には有機ラジカルの触媒反応に関連して、協力を受けて研究を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
金属-硫黄クラスター反応場について想定しなかった反応性が見いだされたため、それを解明するための実験に計画以上の時間を要した。成果を取りまとめた投稿論文が掲載されることによって事業を完結したいため、研究期間の次年度への延長を申請している。次年度使用する予算は、論文を完成させるための追加実験(試薬類の購入、機器使用料)と、論文投稿にかかる経費(校正、文献複写)に使用する。
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