研究実績の概要 |
本年度は、これまで検討してきたイミダゾ[1,5-a]ピリジンカルベン配位子の性質に注目した反応として、前年度に明らかになっていた、パラジウム錯体をもちいるアルキンの水素移動型半還元反応について、より詳細に検討を進め、イミダゾピリジンカルベン配位子の電子的な影響とともに、立体的な嵩高さも反応に大きく影響を与えることを明らかにした。そこで、この知見を踏まえた上で、Organらによって開発されたPEPPISI型パラジウム錯体を誘導し、それらの触媒反応への応用を検討した。この際、別の検討において、パラジウム触媒による3-アリール-1,5-ジブロモイミダゾ[1,5-a]ピリジンとスチレン誘導体の反応において、分子内炭素-水素結合直接アリール化による環化反応とHeck反応が順次進行した発光性化合物が生成することを見つけており、それらが、イミダゾピリジンカルベン配位子を持つパラジウム錯体が、反応機構上有効に働くことが期待されたため適用してみたところ、期待通りの顕著な反応加速効果が見られた。この場合、特にHeck反応の加速効果が顕著であり、これは、これまでNHCを配位子とするHeck反応があまり良好な系が見られなかったのと対照的な結果であった。 以上のことから、本研究期間において最終的に、われわれが当初期待したとおり、イミダゾピリジンカルベン配位子は従来のNHCと同様に強いドナー性を保ちながら、一方でπアクセプター性も顕著に持つため、それらの性質が顕著に影響する、不飽和結合の配位、挿入およびβ脱離反応を含む反応で有効に働くことが示唆された。
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