研究課題/領域番号 |
16K05771
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
瀬川 泰知 名古屋大学, 理学研究科, 特任准教授 (60570794)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | C-Hホウ素化 / ベンゼン環 / パラ位 |
研究実績の概要 |
本年度は、開発したパラ位ホウ素化反応のさらなる改良および当該反応の応用を指向して研究を行った。 まず米国エモリー大学のG. D. Musaev教授らのグループと共同で、開発した反応の計算化学による機構解明研究を行った。その結果、触媒活性種は酵素のように柔軟な反応場を有し、パラ位ホウ素化体が生成する経路がメタ位ホウ素化体が生成する経路よりも優先することに寄与していることが明らかになった。この結果はACS Catalysis誌に投稿し掲載された。これにより配位子開発の指針を明確化することができ、研究を大きく加速することに成功した。 次に本反応の汎用性を向上させる研究を行った。本反応では溶媒としてヘキサンを用いるが、ヘキサンは溶媒和能の低い非極性溶媒であり、これに溶けない基質に対しては本反応を適用できないという欠点がある。そこで、より汎用性の高い溶媒を用いて高い活性を示す触媒系の開発を行った。本反応では顕著な配位子効果が見られるため、Xyl-MeO-BIPHEPの構造をチューニングすることにより高い活性が得られると考えた。配位子の電子的性質を制御するために電子供与性および電子求引性の置換基を導入し、検討を重ねたところ電子不足な配位子がテトラヒドロフラン(THF)中で高い活性を示すことを見出した。THFは有機合成において、溶解能の高い溶媒として多用されるため、より汎用性の高い反応へと改良できた。 以上、実験・計算化学の両面から絞り込んでいき最適な配位子を見つけたことで、適用できる基質の幅が大きく広がり、機能性材料や医薬品、複雑天然物への応用を可能にした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度における特筆すべき研究成果は、計算科学を用いた反応機構解明研究である。Musaev教授およびHaines博士と密に連携し、我々がもつ実験結果と矛盾しない仮説を慎重に構築し、検討を進めていった。Musaev教授とHaines博士との連絡は、毎月のメールによる研究進捗報告、不定期でのスカイプを用いたディスカッション、また11月に両名が日本を訪問した際に直接打ち合わせを行った。計算科学にて判断がつかない事象に直面した際はこちらで実際に実験を行い、仮説の補強を行った。これによって、これまで手探り状態であった配位子検討に道筋が生まれ、我々が目指す汎用性と選択性を両立させた配位子の発見に大きく前進した。実際に、汎用性の低いヘキサンを反応溶媒として用いなければならないというこれまでの制約を取り払い、より汎用的なTHFを溶媒に用いた反応系の確立に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は同様に計算科学のサポートをふまえ、活性・選択性・汎用性を併せもつ触媒反応へと発展させていく。具体的には、メシチレン・TBME・CPME・ジオキサンといった溶媒を用いた場合においても同等の活性と選択性をもつ触媒とする。また、立体的影響がより小さい基質に対しても高いパラ選択性を実現すべく、フェニルシクロヘキサンをモデルとして新たな触媒スクリーニングを行う。現在の反応系では、配位性の置換基によって活性が低下することが分かっているため、水素結合部位を持つ配位子を作成する等の工夫によってこれらの問題を解決する。 汎用性の向上と並行して、機能性材料や複雑天然有機化合物への適用を始める。具体的には、複雑さと多様な生物活性によって非常に有名なストリキニーネの迅速官能基化に挑戦したい。これが実現すれば、ストリキニーネの毒性を効果的に抑え、有用な医薬品として使用できる道が拓ける。
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次年度使用額が生じた理由 |
エモリー大学のMusaev教授との共同研究により計算化学による最適配位子探索を行ったところ、当初の期待よりもさらに計算化学が有効であることが強く示唆されたため、当初は次年度にも継続して行う予定だった計算化学を前倒して遂行し、実験については一部次年度に繰り越した。計算化学の部分において当初の予想を超える成果が得られたため、これをもって当初の計画よりも効率的に今後の実験を実施できると期待される。そのため、全体としての進捗は当初の期待通りである。
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次年度使用額の使用計画 |
計算化学によって得られた予測をもとに、高活性・高選択性が期待できる配位子を網羅的に合成し、そのパラ選択性を評価する。有機合成試薬、遷移金属、高純度溶媒への追加支出が必要であるため、次年度使用額を充てる。
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