研究実績の概要 |
遷移金属触媒による炭素―水素結合の変換反応は、標的分子を短工程かつ副生成物を最小限に抑えながら合成できるため, きわめて有用な分子変換手法である。現在、sp3炭素―水素結合の活性化反応が適用できる化合物には大きな制約があり、その改善が急務である。本研究では、これまで困難であったカルボニル化合物やアミン化合物のsp3炭素―水素結合の活性化・官能基化を達成することを目的とするものである。 研究を計画していた当初、本年度はアルデヒドやケトンなどのカルボニル化合物の炭素―水素結合を官能基化に適した新しい配向基を設計・開発する予定であった。しかし、研究を開始する段階で同様のアイデアによる反応が国際論文誌に報告された(Jin-Quan Yu et al. Science, 2016, 351, 252、Haibo Ge et al. JACS, 2016, 138, 12775など)。したがって、本年度予定していた研究開発を断念し、次年度以降の研究計画内容であるN-カルボキシルアミンの炭素―水素結合の位置選択的な官能基化反応の開発に着手した。本触媒反応の達成の鍵となるのは塩基として働くカルボキシラーとの置換基の構造であると考えられ、まずその効果について検証を行うため、2,2,6,6-テトラメチルピペリジンの窒素原子上にさまざまなカルキシラートが置換した基質を合成した。合成した基質を一酸化炭素雰囲気下でパラジウム触媒と塩基を添加して加熱撹拌したところ、窒素原子のβ位の炭素-水素結合が活性化と一酸化炭素の挿入反応が進行してβ-ラクタムが得られた。またこのとき、β-ラクタムの収率がカルボキシラートの構造によって異なることを明らかにした。
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