研究課題/領域番号 |
16K05777
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
菅 誠治 岡山大学, 自然科学研究科, 教授 (50291430)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | イミニウムカチオン / 立体化学 / 求核剤 |
研究実績の概要 |
インダイレクトカチオンプール法で発生させたN-アシルイミニウムイオン中間体に対して、炭素求核剤を作用させる方法を用いる炭素-炭素結合法に注目して研究を行っている。具体的には、①ジアリールジスルフィドの低温電解酸化により生じるスルホニウムイオンを、アリールチオ基を有するカチオン前駆体に作用させることでN-アシルイミニウムイオンを不可逆的に発生・蓄積させ、②これに対して各種炭素求核剤を作用させることにより炭素-炭素結合が生成する。ピペリジン骨格を有するN-アシルイミニウムイオンと様々な炭素求核剤を用いて反応を行っていたところ、アリルスタンナンとアリルGrignard反応剤を用いた場合に、まったく異なる立体選択性で反応が進行することを偶然見出した。本研究の目的は、なぜ求核剤を使い分けるだけで立体の異なるアリル化体を作り分けることができるのか、詳細なメカニズムを解明することにある。 前年までに、DFT計算の支持電解質や有機金属反応剤の金属の種類さらには会合状態の違いが、特異な選択性の発現に大きく影響を与えていることを実験的に明らかにした。今年度はさらに詳細にDFT計算を行うとともに、金属の種類と会合状態の影響についても精査した結果、二量化したアリルマグネシウムブロミドの二つのマグネシウム原子にBoc基のカルボニル酸素と支持電解質のフッ素原子が配位した中間体の形成が示唆され、計算化学では活性化エネルギーもcis体形成の方が小さくなった。このモデルは実験事実もとよく一致し、特異な立体化学の逆転現象がこの経路を通じておこることが強く示唆された。さらに、メチルクプラートを求核剤として用いた際に通常とは逆の立体であるcis体が高い立体選択性で得られることを発見した。この発見は本手法の合成的な有用性を大きく広げるものと考えている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究目的であるアリルスタンナンとアリルGrignard反応剤を用いた場合に、まったく異なる立体選択性で反応が進行する理由を、計算化学と実験によりある程度説明できるモデルを提唱することができたため。また、これまではアリル化以外の反応においては、求核剤を使い分けてもcis体とtrans体との双方を選択的に合成することはできていなかったが、上記のように、メチル化において同様の特異な立体化学の逆転現象が起こることを見出した。この発見は本手法の合成的な有用性を大きく広げるものと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は本手法の一般性を精査するとともに、詳細かつ系統的な調査を行う。さらに、N-Boc部分を酸素に置き換えた環状カチオン(オキシカルカルベニウムイオン)を用いて、昨年度までに提唱したモデルが正しいかどうかの検証を行い、この現象の発現機構をより確かなものとするとともに、この現象を合成的に利用した、さまざまな立体選択的合成の指針提案も行っていきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は前年度までに合成したN-アシルイミニウムイオンの前駆体やジアリールジスルフィドを用いた実験および計算化学による検討を行ったため、実験資材の購入に対する費用を予想以上にセーブすることができた。 次年度はN-Boc部分を酸素に置き換えた環状カチオン(オキシカルカルベニウムイオン)を用いて実験を行うため、それらの前駆体の合成や環状カチオンの立体化学を決定するためのNMR測定など新たな取り組みのために使用する。
|