研究課題/領域番号 |
16K05778
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
村井 征史 岡山大学, 自然科学研究科, 助教 (40647070)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | アズレン / HOMO-LUMOギャップ / 有機電界効果トランジスタ / フェナセン / アセン |
研究実績の概要 |
ベンゼン環がジグザグにn個連結された[n]フェナセン誘導体は、大気下でも比較的安定であり、新たな電子材料の構成素子として、近年注目されている。本年は、その骨格中のナフタレン環を、5員環シクロペンタジエンと7員環シクロヘプタトリエンが融着した構造を有するアズレン環に組み換えることで、π共役系の分光学的特性や材料特性がどのように変化するか調べた。まず、アズレン環の2位の炭素-水素結合をイリジウム触媒を用いて直截ホウ素化した後、鈴木宮浦クロスカップリング反応、Wittig反応、ビスマス触媒を用いる環化反応を順に行うことで、ナフトアズレンとアズレノフェナントレンを合成した。最後のビスマス触媒を用いる環化は、当研究グループから2014年に報告された反応であり、アズレン環を有し、酸に不安定なビニルエーテル前駆体からでも、ほぼ定量的に環化体を得ることができた。DFT法を用いた理論計算と紫外-歌詞吸収スペクトルの測定結果より、これらはベンゼン環が直線上にn個連結された対応する[n]アセン誘導体に匹敵する狭いHOMO-LUMOギャップを有しながら、空気安定性と溶解性に優れていることが分かった。また、予備的な検討により、後者のホール移動度は0.053cm2V-1s-1、ON/OFF比は1.6×105であり、有機電界効果トランジスタのp型の素子として、中程度の性能を示すことも見出した。π系のトポロジーの微妙な違いにより、諸物性に大きな差が表れることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、アズレン骨格を有する新規多環芳香族炭化水素の短段階での合成に成功したことから、研究はおおむね順調に進行していると言える。また、有機電界効果トランジスタの素子としての性能評価も、予備的にではあるが実施でき、次年度に母核や側鎖の置換基を様々に変えた誘導体を合成し、性能をさらに高めるための準備を整えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
前述したように、これまでに[5]フェナセンのナフタレン環を構造異性体にあたるアズレン環に置き換えたアズレノ[2,1-a]フェナントレンを合成し、その薄膜トランジスタとしての性能を評価したが、移動度は中程度であった。しかし、アズレン環を導入することで、芳香環の縮環数を増やしても[n]フェナセン誘導体の安定性や溶解性が大きくは低下しないことがわかった。そこで本年度は、縮環数の増加や母核へアルキル置換基を導入した様々な誘導体を合成し、高い移動度を示す分子の精査をしたい。また、ヒドロシリル基を有するアズレンの脱水素を伴う環化反応により、電子デバイス素子の鍵骨格として注目されているシロールとアズレンが融着した化合物の合成にも取り組む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)昨年は合成ルートの探索に時間を要し、当初の計画より、薬品等の消耗品の使用額が少なかったため。
(使用計画)前述したように、昨年度の研究により合成ルートが確定し、標的分子の候補が増加し、合成手順の増加が見込まれるため、有機および無機反応剤の購入に前年度使用額との差額を充てる予定である。
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